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ヨロシク‼ 狂戦士の早乙女くん  作者: ジョセフ武園
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愛生歩の章~序

 ベルセルク。英名バーサーカー。こちらの呼び名の方が日本ではなじみ深いだろうか。


 北欧神話の伝承に登場するそれは、戦いの神オーディンによって人知を超える力を手にした者とされている。


 走れば、一息の間に隣の山まで駆け抜け。


 叩けば相手の頭部を破壊しその足元の地が砕け。地割れを起こしたとさえ言われる最強の戦士。同様に加護を受けたベオウルフやヴァルキリーらと共に、聖戦ラグナロクをオーディンの下闘い抜いた。


 結果――オーディンとその義弟ロキは命を落としそれとともに彼らもまた神々と運命を共にしたと言われていた。


 以上、江部栗鼠田書店発行『はじめてのほくおうしんわ』より一部抜粋。




 さて、何故この物語の冒頭をアタシがこんな厨二病の様な綴りで始めたかには実は理由があります。


 えへぇ? アタシがただの厨二病だからだろって⁉ そ、そんなことないもん‼


 ……こほん。いいですか? 閑話休題しますよ?


 え?


 そもそもアタシが誰なのかって?


 失礼しました。アタシは愛生歩。華の14歳女子中学生。


 好きな教科は体育と美術。嫌いなのは数学と英語。あと裁縫とか細かい作業。身長159cm、体重は機密事項。悩み事は父親に鍛えられているから、太ももと二の腕の筋肉。すっごい太いから、マジ最悪。


 ……えっと、なんの話してたんだっけ?




 そうそう‼ バーサーカー‼ どうして突然アタシがそんな話をしたのかって。




 それはとっても簡単で。


 それはとっても非日常的な理由。




 いるんです!


 アタシ達のクラス!


 狂戦士‼


 





「あーあー……じゃあ、こ、この問題……解る奴……」


 数学の先生の問い掛けに、静まり返った教室から鈍くそして重厚な金属音が鳴る。




「はい」


 教室の隅が黒紫色の蒸気を帯びているのは気のせいではない。


『魔闘気』といわれるものらしい。初めて見た時は「漫画かよ」と言ってた男子達ももう慣れたみたいで左程までに気にしていない。




「お、おう……じゃあ早乙女。ま、まま前出て。と、解いてくれるか? 」


 数学教師がそうして彼を指名する。なんでもない。


 それは、どこの中学校でも日常的に見られる光景の筈なのに。


「ガッシャンガッシャン」


 場に似つかわしくない重厚な金属音が教室に木霊した。




 音の原因は、早乙女君のその衣類にある。


 彼が身を包んでいる漆黒の西洋甲冑は実際に神話の聖戦で使用された歴戦の一品だそうで、何故それを身に付けているのかというと、彼はまだ狂戦士の血潮を抑えきる事が出来ないそうです。あの鎧にはそれを封印する力が在るからだそうです。校則も特例で許可が下りています。




「できました」同時に「ガシャコッ」と彼が教師に振り返った音。




「う……うむ、す、素晴らしい」


 その返答を聞くと満足そうにお辞儀をして彼は「ガシャコンガシャコン」リズム良く音を響かせて隅っこの席に戻っていく。




 早乙女マリア君――。顏まで鉄仮面で覆われているから顔貌は解らないけど、本人曰く日本人よりの欧州人顏だそうな。因みにこの鎧は常に外す事は危険なそうで、先月の身体検査でもそのまま行っている。身長は鉄兜の頭髪飾り含めて195cm、体重鎧込189キロ。


 2ヵ月前。2年生進学の翌日。彼は欧羅巴から親の仕事の関係でこの広島の端っこの中学校に転校してきた。何故ここに。


 得意科目、体育以外。苦手科目体育。入部している部活動はテディベア研究会という極めてニッチな的を撃ち抜いている。理由は後程。




 そうして早乙女君は、転校してすぐにこの学校一の有名人になった。そりゃそうか。


 西洋甲冑を着こなす男子生徒なんて日本中探しても彼くらいのものだ。他に居たら困る。


 でも彼はこのクラスに転校した初日にこう言った。


「神話って、作り話て皆さん思われてるかもですけど、実は現代でもその血脈って受け継がれてるんです!


 北欧では狂戦士と戦女神のが多いですけど、アジア圏内だと人狼、人虎とか。


 ただ、なっがい時間、人と交わってその血統が薄くなっているのでボクの様に色濃く特性が出現するのは超稀の特異変質だそうで……


 あ! すいません! こんな話、つまんないですよね⁉


 えーーっと、趣味はテディベア作りで、広島と言えば紅葉まんじゅ……」以上回想。




 いや、多分皆「そんな簡単に言われても」って感じだったと思う。てか、その出で立ちで趣味テディベア作りて。随分と早い伏線回収だなおい。




 まぁ、とにかく。


 人ってば自分達が生きてきた常識とかを逸脱するモノが出現われたら拒絶か無視しかないから。だから、彼の存在をアタシ達は未だ受け入れられない。てか、神話の中の登場人物が突然ハイ目の前に出現われました。実は結構いますよ? って言われて、はいそうですかって受け入れる人なんていないと思う。




 実際彼がここにきて2カ月、彼に声を掛ける人間と言えば興味本位で近付く者か、彼を排除しようとする不良達だけだ。




 アタシは――。


 この2カ月彼を監視し、彼は嘘を吐いていると思っている。何故そんな嘘を吐くのかは知らないが西洋甲冑なんて着て学校に来る現実と非現実の区別もつかない様な人だ。多分ろくでもない理由だと思うし。きっとそもそもがろくでもないニンゲンなんだ。




「いいか、歩。


 正義とは秩序を護る者の事だ」


 お父さんの教えが頭の中を反芻する。


 うちの家系は、代々伝わる古武道道場を営んでいてアタシも幼い頃から父親に厳しく育てられた。これまたすごく早い伏線回収だけど。


 だから、アタシには彼が何か悪事を目論んだ時にそれを防ぐ手立ても力もあるし、この場合アタシがクラスの秩序を彼から護る事がきっと正義なんだ。


 ので、今日も今日とて彼から目を離さないよう監視している。

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