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神託裁判・2

王都は、貴族同士の裁判に興味津々なようで、見学希望者が殺到し、相当な騒ぎになったようだ。


神殿の外まで見学者が溢れる中、証言の信憑性の審査が始まった。


原因を作った()()()令嬢の証言には友人三人が、レジー・キッシンジャー伯爵令息の証言には、王宮騎士団員が三人、グロリア男爵令嬢の証言には、懇意にしている高位貴族と王宮騎士団員、それに副団長の三人がついた。


令嬢の友人達は「そこにいる女性騎士に手紙を渡されたのを見ていた」と、揃って証言した。だから、彼女は嘘をついていない、と。


レジー・キッシンジャー伯爵子息の証言者達は、彼はグロリア・クルーズ男爵令嬢に好意を持っていたから、彼女が心配で命令に従わなかったのは、理解できる。と証言した。だから、彼は嘘をついていない、と。


グロリア・クルーズ男爵令嬢の証言者達は、彼女は品行方正な、素晴らしい令嬢である。 そんな彼女が、わざわざ自分の名誉を傷付ける証言をするだろうか。なので、彼女がそんな嘘をつく訳がない、と証言した。


続いて、テルセオ側の証人が進み出た。ルーカス・スンベオン侯爵令息、セシリア・ミーニャ伯爵令嬢、ニオラオス・エギナ公子の三人だ。


ニオラオス公子は、再びエマの剣帯を使い『まじない』の効果を証明した。


セシリア・ミーニャ伯爵令嬢は、彼が如何にエマ・ベニドニア伯爵令嬢を愛していたかを、学園時代のエピソードや、彼が何年もの間、半月も掛けてエマに会いに行っていた事を証言した。


ルーカス・スンベオン侯爵令息は、グロリア・クルーズ男爵令嬢は業務に(かこ)つけて、男性騎士に言い寄っていたことを証言した。 必要なら言い寄られた騎士を、最低でも十人は呼べると声高に発言した。


そして、テルセオ側の証人達は口を揃え、彼がエマ・ベニドニア伯爵令嬢以外と、そのような行為ができるわけない。と証言した。


剣帯の『まじない』の効果の証明が効いたようで、神殿内の立会人達の判決は、クルーズ男爵側の証言は虚偽だとし、エギナ公子の勝訴とした。

司祭は、早急にエマ・ベニドニア伯爵令嬢の名誉回復と相応の慰謝料の支払いを命じた。


しかし、クルーズ男爵は引き下がらない。

行為に及ぶ時は、剣帯を外すはずだ。なので、その証明は意味を成さない。と、喰い下がった。


それならば、と日を改め『神託』が行われる事になった。


※※※


数日後、再び神殿に証人達と立会人達が呼び出され、見学者が神殿の外まであふれ出ていた。貴族に対して『神託』が行われるのは、珍しい為だろうか。


クルーズ男爵側とアンダクス侯爵側が見守る中、『神託』に使われる『熱棒』が 司祭の前に準備された。


証言が正しいのなら、神の加護で火傷をする事はないだろう、と司祭が説明する。

立ち会いをする司教が『熱棒』に水を掛けると、たちまち音を立てて蒸発する。


「さぁ、誰から『神託』を受けるか」


司祭の問いかけに、誰も名乗りでない。すると、奥からテルセオ・アンダクス侯爵令息が国王と共に現れた。


テルセオは、長らく軟禁されていた為なのか、かなりやつれて見えた。

透き通った湖底のようだった翠玉(エメラルド)の瞳は、よどんだ池のようで、煌めくハニーブロンドの艶やかだった髪は、カサついた老人の様だった。『月光の貴公子』の面影は何処にもなかった。


「そもそも、彼が偽証しているか調べれば早い」

そう言うと、国王はテルセオに『熱棒』を握る事を命令する。


神殿内の全員が息をのみ見守る中、テルセオは司祭の前に進み出て、『熱棒』をゆっくりと握りしめた。


「神託が出た。テルセオ・アンダクス侯爵令息はグロリア・クルーズ男爵令嬢の名誉を傷付ける行為はしていない。従って、クルーズ男爵家の証言は虚偽とする」


司祭は改めて、クルーズ男爵側にエマの名誉回復と賠償金の支払いを命じた。

しかし、今度は神殿に集まっていた立会人と見学者から不満が出た。


クルーズ男爵があんなにも引き下がっていたのだから、グロリア・クルーズ男爵令嬢も『神託』を受けた方がいいのではないか、と。


しかし、令嬢の手に万が一にでも、傷が残るのは困るだろうから、証人側にいる王宮騎士団副団長が『神託』を受ければいい。

彼女は嘘をついていない。と証言したのだから。と囃し立てる。


「確かにそうだ。あれほど、アンダクス侯爵令息に汚された。と言い張っていたのだから、『神託』を受けるべきた」

司祭により、再び熱された『熱棒』が副団長の前に差し出された。


しかし、副団長は首を左右に振りながら、ズリズリと後ずさりする。そして「虚偽の証言をした」と告白した。

家族がクルーズ男爵に巨額の借金をしていて、借金を帳消しにする代わりに、虚偽の証言を頼まれた、と。


「これは困った。それでは、キッシンジャー卿」

司祭が再び命じ、キッシンジャー伯爵令息の前に『熱棒』が差し出される。


彼は、意を決したように『熱棒』に手を差し出したが「無理です!」と叫んだ。

自分も、グロリア嬢に頼まれて、アンダクス隊長をあの窪地に連れ出した、と証言し直した。


「それでは、今は虚偽の証言をしていないのだな?」

国王は二人の騎士に問いかけた。

二人が頷くと「ならば、『熱棒』を握れ。これは命令だ」と、国王自ら『熱棒』を二人に突きつけた。


国王直々の命令に背ける訳もなく、二人の騎士は意を決して『熱棒』を握りしめた。

「―――熱くない」


神殿中がどよめいた。その場にいた全員が、この『神託』は本物だと。神前で国王までも欺こうとした、男爵家は国賊だ。 クルーズ男爵家を厳罰に処さなければ、この国に神罰が下ると恐れおののいた。



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