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神託裁判・1

グレタ城に入った頃には、ブドウ畑の葉もすっかり色付いて、秋めいていた。


王都を出てほぼ一ヶ月、あの事件の全容も解ってきていた。


※※※


事件の全貌を明らかにする事を望む、エギナ公国の欲求に答える形で、事件に関わった当事者達が裁判所に徴収された。


始めに、あの失礼な令嬢が証言台に立ち、何故あの時間に、あの場所にいたのか問われた。

彼女は、手紙であの場に呼び出されたが誰もいなかった。 一応、辺りを確認しようとウロウロしていたら、足を滑らせて窪地に落ちてしまった。と証言した。


手紙は何処にあるか問われると、覚えていない。と証言する。


その後、女性騎士が窪地に降りてきて引き上げてくれ、男性騎士が離宮まで連れていってくれた。と証言して終わった。


次に、レジー・キッシンジャー伯爵子息が証言台に立った。

彼は、何故テルセオ・アンダクス侯爵令息のみを連れ、現場の窪地に向かったのか。を問いただされた。


令嬢を医務室へ送り届けた後、暗くなる前に窪地に落ちたグロリア・クルーズ男爵令嬢を救出したいと、気が動転していて、アンダクス隊長しか目に入らなかった。と証言した

今思えば、他の騎士にも声を掛けるようにと言った、隊長の指示を聞いていれば良かったと反省している。と伝えた。


「君は、アンダクス隊長の命令を聞かなかった。という事ですか?」

「結果的には、そうなります。 僕自信も、早く現場に戻りたくて急いでいたものですから」


キッシンジャー卿は、他の騎士は出払っていたようで、誰も見かけなかった。と証言した。


最後に、グロリア・クルーズ男爵令嬢が証言台に立った。

何故、川に入ったのか問われると、何かストールみたいなものが、岩に引っ掛かっているのが見えた。 令嬢の物かと思い、拾おうとした。と、答える。


その後、アンダクス卿に助けられた時の事を問われると、

「何も覚えていない。 裸の彼が覆い被さってきた事と、気がつけばドレスが破れていた事しかわからない」

そう言うと、彼女のすすり泣く声だけが響く。


しかし、裁判所内は(しら)けていた。 なぜなら、前もってニオラオス公子により、テルセオ・アンダクスの身の潔白が証明されていたからだった。


裁判長は、公子側の勝訴とし、クルーズ男爵は婚約破棄をさせ、エマ・ベニドニアの名誉を傷付けた事への賠償を命じた。


その事を伝えられても尚、グロリア・クルーズ嬢は引き下がらない。 自分は確かにテルセオ・アンダクスに襲われた。と証言する。


クルーズ男爵と一部の立会人の貴族が「自分達はテルセオ・アンダクス侯爵令息の潔白の証明に立ち合っていないのだから、無効である」と騒ぎだす。


司教は「国王の立ち会いの元、行われた事なので、結果は覆らない」と伝えるが、彼等は収まらない。

それならばと、証言の信憑性の審査と、必要なら『神託』を後日行う運びとなった。


※※※


グレタ城から見える、ブドウ畑の紅葉も落ちてしまい、そろそろ冬の足音が聞こえ始めた。

中庭でのティータイムも、日が陰ってくると肌寒さを感じるようになってきた。


あれから数ヶ月、ニオラオス公子やルキア妃を始め、セシリアやサラ、アンヘラから手紙が届く。

それらの手紙を読むと、自分が知っていた事は、ほんの一部だった事がわかった。

テルセオがどんな思いで婚約破棄を申し出たのか、そうせざるを得なかったのかが、事細かに書かれてあった。


彼女達からの手紙を眺めながら、早くも冷め始めた茉莉花茶(ジャスミンティー)に口を付けると、目の前に新聞が投げ出された。


『アンダクス侯爵令息、潔白証明されるが、クルーズ男爵側は、判決不服を申し出る』


「まだ、テルセオを許せない?」

苛立ちを隠さないパウラは、見出しを人差し指でトントンと指し示しめす。


私はチラリと見出しを見るが、正直自分の気持ちがわからない。


「わからないわ」

そうとしか言えなかった。


必死に、自分は捨てられた。もう、愛されてない。と自分自身に言い聞かせ、テルセオを忘れるの努力をした。

ようやく、彼への怒りが薄れ、思い出す事も少なくなってきていたのだ。それなのに、今頃になって―――

それらの手紙を読めば、いかに自分がテルセオに愛されていたのかがわかってしまった。

でも、今更、そう今更なのだ。 どうすればいいのか、どうしたらいいのか、さっぱりわからない。


「じゃぁ、テルセオの近くで確認すれば?」

パブロが紅茶のおかわりを注いでくれる。 新しい湯気が立ち上がる。


「王都についた頃には、判決もでてるでしょ」



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