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研究所一日目

翌日、おそるおそる()()()()()を王宮で使ってみた。

城門で騎士に通行証を見せるが、特に何も言われる事なく通ることができた。


「胡散臭いと思ってたけど」

「本物だったんですね……」


アリスとお互い顔を見合わせて笑い会う。 昼に迎えに来てもらう事にして、アリスと別れた。

そこから、一人で研究所に向かうが、誰に何を言われる事もなく、すんなり事が進んだ。


しかし、研究所の扉の前で、急に不安になり立ち止まる。

(本当に来ても良かったのだろうか)

辞令があるわけでもない。口頭で言われただけだ。

(通行証は、本物だったけど……)


そーっと、扉を開けてみる。 中途半端に開いたドアの隙間からは、昨日と同じように、忙しく動き回る職員達が見えた。


(このまま、こっそり昨日の作業場に行こう)

心を決めたエマは、一歩足を踏み入れた。


―――瞬間


「来てくれたのね!」

「来ないかと思ったわ」

「ありがとう!助かるよ」

好意的な言葉が掛けられる。


「本日も、よろしくお願いします」

努めて、礼儀正しく、好感を持ってもらえるようにと想いながら挨拶をした。

(このまま、研究所の職員になれないかしら?)

淡い期待を持ちながら、昨日と同じく、鍋をかき混ぜ、せっせと回復薬を作っていた。


(そういえば、テオドロスがいるはずなんだけど)

辺りを見回してみるが、彼の姿は見当たらない。 昨日も見当たらなかったので、何処かへ出掛けているのかもしれない。


ボンヤリと鍋をかき回しながら、ふと気付けば薬草を使い果たしてしまったようだ。

「あの……薬草が足りなくなってしまったのですが……」

近くにいた職員に声をかけると、薬草園の行き方を教えてくれた。 途中、門があるので通行証を見せれば問題ない、と言われた。


薬草園までの道程は、複雑ではなかったので、迷う事なく、たどり着く事ができた。


薬草園の門をくぐると、様々な薬草が栽培されている。 図鑑でしか見たことのない、異国の薬草もある。

半ば、回復薬の事を忘れ、興味津々に見て回っていると、昨日の所長の姿が見えた。 挨拶をしておこうと近付くと―――


「エマ、なんでここにいるの?」

驚くテオドロスに遭遇した。 ここに居たのか。

「あら、二人はお知り合い?」


所長に、遠戚であることを説明すると

「それなら、余計都合がいいわ。エマに、研究所で働いてもらいたいのだけど、どうかしら?」

「本当ですか?」

思わず喜んでしまった。 希望が叶う。 期待を込めてテオドロスの顔色を伺うが、微妙な表情(かお)をしている。


「エマは、結婚を控えているので、働くのは難しいかと……」

「まだ、婚約中です。父の許可があれば良いですか? 私、もっと薬草や薬の事を知りたいです」


私の剣幕に驚いた様子の所長は、ずいぶんと勤勉なお嬢さんだ。と、カラカラ笑う。

「いいよ。私の方からも是非にと、君の父親にお願いしてみよう」

そして、思い出したかの様に言葉を続けた。

「まだ、自己紹介してなかったよね。 私は、王立研究所の代表、ロサ・ドミンゲス。 ここでは所長で通っている。よろしく頼むよ」

エマは、差し出された手を握った。


「そうと決まれば、早速ベトベニア伯に挨拶に行こう。ここを任せてもいいかな?」

「拒否権は、ないんですよね?」

「よくわかってるじゃないか。さすがだ」

所長は、テオドロスに手を降りながら、薬草園を後にした。


ハァーと、盛大なため息をつき、テオドロスはエマを横目に見る。


「で、なんで所長と知り合いなの?」


エマは昨日の出来事を話、回復薬を作る手伝いに来たと伝える。


「そうだ! 回復薬の材料がなくなったから、取りに来たのだったわ」

すっかり忘れていた。 いそいで戻らなければ。

「―――僕も一緒に行くよ」


※※※


テオドロスと一緒に薬草のカゴを抱え、研究所へと急いでいた。

「エマ、一つお願いがあるんだけど」

足を止めた彼は、いつになく真剣な表情だ。

「改まって……なに?」

「僕が、隣国の王族って言うのは、皆には伝えてないんだ。 カルタシア侯爵の親戚って事になってるんで、うっかり話さないでね」


―――なんだ、そんな事か。お祖父様の親戚って、本当の事じゃない。


「わかりました。叔父様」

クスクス笑いながら、そう伝えると

「叔父様は嫌だな。いつも通りよ呼び方で頼むよ。 僕とエマが親戚ってのも、そのうち気付くだろう」


研究所に戻り、再び回復薬を作り始める。 テオドロスはまた、何処かへ行ってしまったようだ。


採取してきた薬草をすっかり使い果たした頃、アリスが迎えに来た、と連絡を受けた。

職員の方々に、また明日伺います。と挨拶をして、アリスが待つ城門へと急いだ。




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