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波乱

その頃、王宮でも騒ぎが起きていた。


ニオラオス公子が公国騎士を引き連れ、国王への面会を迫った。

エギナ公族のエマの名誉を守る為、グロリア・クルーズ男爵令嬢の件について、(つまび)らかにする事を望む、と。

そして、テルセオ・アンダクス侯爵令息を参考人として拘束し、エギナ公国の名の元、軟禁する。と宣言した。


公国の訴状には、こうあった。


《グロリア・クルーズ男爵令嬢の偽証とクルーズ男爵の脅迫により、テルセオ・アンダクス侯爵令息は、エギナ一族の娘と婚約していたにも関わらず、その婚約を破棄せざるを得なかった。

そして、婚約破棄により、エギナ一族の娘の社会的地位を貶めた。


偽証と脅迫により、エマ・ベニドニア伯爵令嬢に婚約破棄という不名誉を与えたクルーズ男爵家の罪は重く、それ相当の罰を与えるべきで、これらの行為は、我が一族を侮辱するものである》


他にも、不満をツラツラと書き連ねてあった。

『王都の物流を止める』という脅迫は、如何なものか。 まるで、クルーズ男爵の城下のようではないか、国王は男爵家の横暴を容認しているのか。

それならば、こちらは『交易の停止』を申し出る。と、ニオラオス公子は言い出した。


エギナ公国は有数の鉱山を保有しており、カルトダール王国に流通している宝石類は、ほぼエギナ産だった。

他にもエギナ産の薬草は、優れた効能を持っていた。


平民には、全くと言っていい程関係のない商品だが、一部の貴族達にとっては困った事になる。


たかが、『婚約破棄を巡る揉め事』だと思っていた国王は舌を巻く。 まさか、国を挙げての紛争になるとは、思っていなかったであろう。


慌てた国王は、当事者達を集め裁判を行うことした。


※※※


そんな中、問題が起きた。


レオナルド王子の婚約者候補、サラ・コエーリョ伯爵令嬢が領地に戻ったその日に姿を消したのだ。

次いで、領地に戻ったセシリア・ミーニャ伯爵令嬢、アンヘラ・パラモ伯爵令嬢も行方をくらませた。


そして翌朝、彼女達は、領地の騎士団員と共に戻ってきて、異口同音に訴えた。

「一晩たってしまったから、私はこの騎士と婚姻しなければなりません」

慌てた彼女達の両親は、そんな必要はないと説得するが

「だって、エマはそれで婚約破棄されたじゃない」

そう言って、婚約者候補の彼女達は、王室へ『婚約者候補の辞退』を申し出た。


サラに至っては、()()だった。

レオナルド王子が自分との婚約を切望していなければ、サラも愛しい相手を失う。


でも、エマの為に勇気を振り絞っていた。

こんな茶番を許してはならない。言い掛かりを容認してはならない。その一心だった。


サラは夜空高くに昇る月に祈っていた。 この作戦が上手くいきますように。 クルーズ男爵令嬢とテルセオの婚姻に、疑問を持つ貴族が増えますように、と。


※※※


―――それに呼応するかのように、第一王子アレハンドロの婚約者候補達も、同じ理由で候補辞退の申し入れをしてきた。


同時に彼女達の両親からも、抗議文が届いた。


《なぜ、クルーズ男爵の要求を認めたのか。

ベニドニア伯爵令嬢とアンダクス侯爵令息との婚約こそ正当なもので、不当な理由のクルーズ男爵令嬢の婚約は認めてはならない。秩序が乱れる原因である》


そして、他貴族の間からも疑問の声が上がっていた。


《行方不明者や事件の被害者などを、警備兵や騎士団員が見つけた時に、一晩たっていたら責任を取らないといけないのか? あまりにも理不尽ではないか。

騎士団に所属している高位貴族の令息は、いいカモではないか。

また、そんな理由で婚約破棄になるのなら、『婚約』とはいったい何なのであろうか。

今後の為にも、不可解な前例は作らないで欲しい》


そのような嘆願書が、議会に提出された。


※※※


大衆新聞の紙面も賑わいを見せていた。


『両王子の婚約者候補全滅。全員、発見者の騎士と婚姻か?』

『高位貴族令嬢の失踪相次ぐ。クルーズ男爵令嬢への反感か?』

『助けを求めるなら、高位貴族の騎士が狙い目』


この騒ぎに心を痛めた王女が、父親である国王と教会に、クルーズ男爵令嬢とアンダクス侯爵令息の婚姻を認めないように願い出た。

そして、問題の早期解決を希望したのだが「その問題は裁判所に任せてある」と、国王は相手にしなかった。


すると、今度は王女が失踪した。

さすがに未遂で終わったのだが、これにより王家は本腰を入れ、クルーズ男爵家の調査にあたる事となった。



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