失恋のその後・4
案内された部屋に入った三人の目に映ったのは、こちらに頭を下げている、レオナルド殿下の姿だった。
彼の隣には、分かりやすく怒りを表しているサラと、イラついているルーカスがいた。
セシリアやアンヘラも、怒っているようだった。
(今日は、身分ある人に謝られる日なのかしら)
先程、コドセラ侯爵に頭を下げられた事を思い出す。
「ベニドニア嬢、申し訳なかった。今回の件は全て、私の不徳の致すところだ。考えが甘かった」
「まぁ、立ち話もなんだから、座ろうよ。エマ、パウラ」
相変わらず飄々としているパブロが、私達に椅子を引く。
※※※
―――レオナルド王子が私達にした話は、先程、コドセラ侯爵から聞いた話とほとんど変わりなかった。
ただ一つ違う点は、すべて『わかっていた』ということだった。
ただ、それを男爵側が『名誉』に結びつけてくるとは思わなかったと。
そして、テルセオが男爵側の言い分を受け入れたのも予想外で、彼が何を考えてそうしたのか、サッパリわからない。
「良心の呵責ってヤツじゃないの? テルセオ
はそんな器用じゃないわ。 幼なじみだからわかるの。 彼に人の心は弄べないわ」
セシリアは憤慨している。
「それじゃ困るんだよ。 僕の手足になってもらわないと」
「だから僕が行くって言ったじゃないですか」
ルーカスがレオナルド王子に噛みつく。
「仕方ないだろ? クルーズ嬢が気に入ってたのはテルセオの方だったんだから……」
もう済んだ話だとレオナルド王子は、相手にしなかったのだが、ルーカスは引き下がらない。
男爵家の援助を受けている騎士団員が相当数いること。最近では、副団長の家族が男爵家の援助を受けなければならなくなった事。
そのせいなのかわからないが、当日、副団長は体調不良で指示を出せず、急遽、テルセオが代理を努めたこと。
何故か、クルーズ嬢らが落ちた窪地の付近には、男爵家の援助を受けている団員しかいなかった事。
レオナルド王子に問いただす。何故、テルセオを一人にしたのか。
あの日、あの時、自分達は別の区域の目撃情報で、呼び出されたこと。それも今思えば、全て疑わしい情報だった事。
重苦しい沈黙が続く。
ルーカスの告白は、先に部屋にいたセシリアやサラ達も知らなかった内容のようだった。
「つまり、レオナルド王子は、指導者の器ではなく、王宮騎士団は腐りきってる。ってこと? アハッおかしいや」
「パブロ、言いすぎよ」
パウラが一喝するが、彼は止まらない。
「でもさ、そいつのせいで、テルセオとエマは別れる羽目になったんだぜ?」
パブロは、まくし立てる。
「そもそも、アンダクス家の印璽が模倣された時点で、クルーズ家を泳がさなきゃ良かったんだよ」
私は、はたと気が付いた。
「待ってパブロ……。レオナルド殿下、あの手紙の時点でグロリア・クルーズが何か仕掛けてくると、何かしらの罠があると、気付いていた、と言うことですか?」
「まぁ……何かあるだろうな……とは思っていたが」
とても言いにくそうに、私をチラチラ見ている。
私は思い返していた。テルセオの告白を。
(あの時の告白は、これの心配をしていたのかしら?)
「あぁぁぁぁぁ!」
叫びながら頭を抱えてうずくまる。皆がギョッとして、私を見つめていた。
あぁ、そうか。そういう事なのか。
万が一の保険であのような告白をしたのか。 万が一があっても、私がテルセオを見限らないように。
それが、貞操問題に発展するとは想定外だったのだ。
なんてヒドイ人なんだ。 全てが終わってから婚約を申し込んでくれれば良かったのに。
もう、テルセオをあきらめられない。もう、婚約破棄を願っていたあの私には戻れない。
彼は苦しみだけを残して去っていった。 まるで、喉に刺さった小骨のようだ。いつまでも、心に引っ掛かりチクチク痛む。
「殿下は、私に謝って自分が救われたいだけですよね?」
「私に出来ることがあれば、するつもりでは、いる」
「じゃあ、私を死なせて……」
だんだんと視界が歪んでいく。
「エマ!?」
皆が驚いて私の顔を覗き込む。 パブロなんて、手に持ったカップを落とすところだった。
「だって、テルセオは戻ってこないのでしょう? だったら、生きてる意味がないわ。 なんで、もっと早く気付かなかったのかしら……。そうよ……死ねば……いいんだわ……」
エマの様子がおかしい。 だんだんと舌ったらずになっていき、朦朧としてきていている。
パブロが駆け寄ったと同時に、エマの身体が椅子から崩れ落ちた。
「エマ!エマ、ダメだ! 諦めちゃダメだ」
パブロが必死に声をかける。 その声も次第に涙でくぐもっていく。
「ダメだ……ダメだよ、エマ……」
パブロの腕の中のエマは、意識をすっかり手放した。
※※※
パブロの腕の中で、エマは穏やかに眠っていた。
「イリス様が亡くなった時と一緒だわ……」
パウラがポツリと呟いた。
「記憶が失くなったってヤツ?」
アンヘラが心配そうにエマの顔を覗き込む。とても幸せそうに眠っていた。頬に涙の筋があること以外は。
「セシリア……私、やるわ」
サラが、意を決したように宣言をする。
「いいの?サラ。かなりの問題になるわよ?」
「こういうのは、大きな問題になる方がいいのよ」
「私もやるわ」
セシリア、サラ、アンヘラが何かをやろうとしているが、パウラにはサッパリ内容がわからない。
「私達、領地で遭難するわ」
彼女たちはそう言って、不敵に微笑んだ。




