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狩猟大会*十*誤算

レオナルドがゆっくりとサラに近づいてきた。


昨年まで、レオナルド王子は王女に獲物を捧げていた。

見ているこちらがドキドキする。エマは、思わず両方の手を組み合わせた。


「サラ……」

そう言って、レオナルドはサラの目前で(ひざまず)く。

「これを、君に捧げる」

そう言うと、彼の後ろから、かなりの大きさの吊るされた男鹿が現れた。


感嘆の声と共に称賛の拍手が鳴り響く。


「これで、サラが婚約者って決まったようなものね」

エマ達は、コソコソと話し合っていた。

「私達のお見合い相手を捜してくれるっていう話は、有効かしら?」

アンヘラが不安そうにしていた。

「だって、どうみても私が一番出遅れてるわ」

「もう、シーズンが終わったようなものだから、有効にしてもらうわよ。そうじゃないと困るわ」

セシリアが文句を言っているが、ルーカスがセシリアの花輪を被ったではないか。 その事をアンヘラが指摘すると「あんなの、あいつの悪ふざけよ」と、相手にしていなかった。



「エマ」

「セシリア」

レオナルド王子とサラを祝福する拍手に混じって、私達を呼ぶ声が聞こえた。

テルセオとルーカスだった。


(あぁ…この歓声には、彼らも含まれていたのか)


とろけるような微笑みを湛えたテルセオが、エマに近付いてくる。

「エマ、やっと君に捧げる事ができる。とても、嬉しい」

テルセオがそう言うと、レオナルド王子と同等の大きさの吊るされた男鹿が現れた。

「本当は一番大きい鹿をプレゼントしたかったのだけど……殿下にね」

そう言って、彼はフワリと微笑んだ。 そしてエマの左手を取り、キラリと輝くアンダクス家の指環に唇を落とした。


悲鳴にも似た歓声が上がった。


彼は、エマの耳元に唇を寄せ囁いた。

「これで、僕たちの婚約も()()したようなもんでしょ」

彼は不敵に微笑んだ。



そんなエマ達を横目にルーカスは、セシリアに吊るした男鹿を見せつけていた。


「なによ」

セシリアが、怪訝な顔で睨み付けていた。

「なんだろ。この()()に獲物を捧げているんだよ? もうちょっと喜んでよ」

「あなたのそういう所が嫌いよ。私をからかってるんでしょ?」


セシリアは少しも絆されない。反対に警戒心でいっぱいになっていた。 シグナルが見えたとしたら、赤の点滅だ。


「ハァ……」

ため息をついたルーカスは、ズカズカとセシリアに近付き、身構えた彼女を両腕で抱きすくめた。

カチコチに固まったセシリアの耳元で、ルーカスは囁いた。

「絶対、お前を落としてやる」


『陽光の貴公子』にあるまじき表現だったが、セシリアは知っていた。 彼の本性は『真っ黒』だと。

テルセオと三人でいる時の彼は、ちっとも『陽光』ではなく『暗黒』だとよく言ってたものだ。


ルーカスに抱きすくめられたままのセシリアは、どうすればいいのかわからずに、動けないでいた。


※※※


王宮騎士団で人気の三人に、それぞれ想い人がいる。 それが明らかになった今、令嬢達は、次なる令息をターゲットに選び出す。

まだ、最後ではない。 今シーズンを締める夜会が、今夜、離宮で開かれる。

令嬢達は、最終決戦への準備をするため、それぞれ屋敷に戻り始めた。


エマはテルセオに連れられ、アンダクス家のテントへと向かっていた。

エマを見つめる彼は、例えようもない位、幸せそうに微笑んでいる。 そんな彼を見つめるエマも、身体の芯から幸福が溢れ出てくるような心地だった。


今シーズン最後の夜会に、二人一緒の馬車で向かえるようにと、侯爵夫人が侯爵家で準備できるようにと、アリスを待機させてくれていた。

先に屋敷に戻ろうか。と、エマとテルセオが話し合っていた、その時。


「アンダクス隊長!」

王宮騎士団の団員が、息も切れ切れに駆け寄って来た。

「ご令嬢が、一人、行方知れずになりました!」


とたん、テルセオの顔色が変わる。


十分な警備が敷かれている、この『王家の森』で、行方不明なんて、事件なんてあり得ない。あってはならない。

()()が起こっている』そう、皆が感じた。


「私達は、先に屋敷に戻っているわ」

侯爵夫人がエマの肩に手を置いて、テルセオに急ぐようせかす。


「テルセオ!行くぞ!」

ルーカスも馬で駆けつけ、彼を急かす。 テルセオも急ぎ馬上の人となり、エマに声をかける。


「エマ!身の回りに気をつけて。母上、頼みました」


そう、言い残してルーカスと駆けていった。

エマと侯爵家の人々は、彼が駆けていく後ろ姿をただ、ただ見送るしか出来なかった。


※※※


きらびやかなランタンで照らされた離宮の中庭と、飾り立てられた令嬢のドレスで、今シーズン締めくくりに相応しい、華やかな夜会が執り行われている。


そんな絢爛たる中庭の片隅に、沈んだ表情(かお)の令嬢が数人、ガゼボを占領していた。エマ達だった。


テルセオを始め、ルーカス、レオナルド王子達、王宮騎士団総出で、行方不明の令嬢を捜している。

陽もとうに沈み、辺りは暗闇に包まれている。


なぜ、行方不明なのか。 誘拐なのか? 魔獣に襲われたのか? 事件なのか? 事故なのか?

あちらこちらに警備の為に騎士が立っていたのに、巡回していたのに、令嬢がいなくなるなんて、()()でしかない。

エマに届けられた()()に関係あるのだろうか? 不安だけが募る。


―――何もわからないことが、こんなにも不安だとは知らなかった。 何か情報が欲しい。

でも、本当に知りたいのは、愛しいテルセオが()()なのか。 ただ、それだけ。

こんな時に、そんな自分勝手な心配をしている自分に嫌気がさす。


「……殿下が無事かどうか。それしか考えられない私は、王子妃失格かしら」

サラが、シクシクと泣き出した。

「大丈夫。 私もテルセオの事しか考えられないもの」

エマも、不安に押し潰されそうだった。


そんな中「令嬢が見つかった」と騎士団員が離宮に駆け込んで来た。

皆、安堵のため息をついた。そして、歓声と拍手喝采の嵐が巻き起こる。


エマ達も、肩を抱き合って喜んだ。

しかし、次の一言でエマは凍りついた。


「アンダクス隊長とグロリア・クルーズが、まだ、戻ってきません!」






15時

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