狩猟大会*八*挑発
今日は、騎士団のうち独身団員もイチ参加者として、催事を楽しんでいた。
そのかわり、既婚者は警備を請け負い、忙しい一日となる。
※※※
『王家の森』の一角に、ポッカリと開けた広場がある。
目も覚めるような青空の下、王妃の号令で、女性だけの騎射大会が始まった。
午後から始まる、狩猟大会の前座のような物だ。 的に当たった点数で勝敗が決まる。
そしてサラの予想通り、今年の優勝は簡単だった。
やはり、第一王子アレハンドロの婚約者候補が王妃のお茶会に呼ばれていて、毎年優勝している令嬢が、その候補に入っていた。
「サラの優勝が決まったようなものだけど、これはないんじゃない?」
「まるで、私達、見世物だわ……」
セシリアとパウラが、ブツブツと文句を言い合っている。
然もありなん。 騎射場の近くの木陰にテーブルが並べられ、そこで王妃のお茶会が開かれていたのだ。
騎射を眺めながら行われるお茶会、正に見世物だった。
その上、サラを見たいが為に、第二王子のレオナルドまで参列しているのだから、彼の護衛をする人気の両極『月光の貴公子』テルセオと『陽光の貴公子』ルーカスまで揃っている。
急遽、騎射の参加を止めて、見学する側に回った令嬢は数知れず……。 といっても、もともと参加数は少ないのだが。
なので、エマ達五人と彼らに興味のない、もしくは知らなかった数人の令嬢のみで、騎射大会が行われた。
結果は、火を見るより明らかで、毎年優勝争いをしていたサラ・コエーリョが断トツだった。
ついで、パウラ・サラマスとエマ・ベニドニア。そして、アンヘラ・パラモ、セシリア・ミーニャと続いた。
王妃からサラが優勝、パウラが準優勝の盾を授与されている間、舞台袖にエマ達はいた。
ここから、
ルーカスの回りを華やかな令嬢達が取り囲んでいた。彼は、微笑みを絶やすこと無く一人一人、令嬢達の相手をし、彼女達もお互いに節度を保っているように感じる。
それは、いつもの見慣れた光景らしのだが、同じような光景は、テルセオにも見られるはずだった。
それは、それでエマとしては、ヤキモキするのだが……。
「あれは、無いわね……」
セシリアが顎で指し示した方向に、一人の令嬢がいた。
テルセオの横を、その令嬢が陣取り、牽制していた。異様な光景だった。
―――あり得ない。
グロリア・クルーズ。 あの、女性騎士だ。
テルセオ自信も、他の令嬢も彼女を批判している様子があるものの、聞き入れていないようだ。
そして、エマを含めた参加者全員が壇上にあがり、王女から称えられていた、正にその時、あの女は、テルセオにしなだれかかったのだ。
カノジョは、エマから視線を外さず、挑発している。
―――どういうつもりなの?
エマも、視線を外したら負けのような気がして、グロリア・クルーズを睨み続けた。
せっかくテルセオと揃えた乗馬服が、とても空しく感じた。
※※※
昼食会に参加するために一度屋敷に戻り、再びパウラと離宮へと向かっている。
馬車のガタゴト奏でる音が、ささくれだった気持ちを落ち着かせてくれる。
テルセオが、グロリア・クルーズの腕を振り払わないのが気に入らない。
『まぁ、彼女が、護衛やら何やらと親しげにしてりゃ、勘違いするか……』
ルーカスが言っていたという言葉が、胸に刺さる。
「ねぇ、私、パブロと親しげかしら?」
窓の外を眺めていたパウラが、目をしばたかせエマを見やる。
「―――まぁ、親しげなのは確かだけど、そんなものじゃないの? あなた達は兄弟以上の間柄だし。身体の一部みたいな……。何か言われたの?」
「セシリアから聞いた。勘違いしている令嬢がいるって」
「あぁ……あの騎士ね」
それだけ言うと、彼女は再び窓の外を眺めた。
※※※
―――神様、助けてください。もう、耐えられません。
離宮の離れで見つけた礼拝堂に、吸い込まれるようにして扉を開けた。
ステンドグラスの光に照らされた、彩り豊かな床にしゃがみこみ、たぶん、初めて心の底から、神に祈りを捧げた。
当たり障りの無い挨拶を交わして、心無い笑顔を振り撒く。 相手の喜びそうな言葉を選び「まぁ」と、感嘆の声を上げる。
何を話していたかなんて、まったく覚えていない。 それなのに―――
セシリアから聞いた言葉が、薔薇の棘のように心に刺さっている。
パブロが何かを感じているようで、遠くで見守っている。 本当なら、今すぐパブロに泣きつきたい。 本当なら、テオドロスに愚痴りたい。 今すぐテルセオに抱きしめてもらいたい……。
あの、グロリア・クルーズ……。
そこで、ハタと気が付いた。
なんで、私、遠慮しているんだろう。
「仕事で親しくしないといけない」と言われたが、「仕事だから、近寄らないで」とは言われていない。
―――神様、ありがとうございます。
これが、神の啓示なのだろうか。
(私、もう、遠慮しないわ)
エマは、力強く立ち上がった。
22時




