狩猟大会*六*前夜祭
『王家の森』の離宮に、セシリア、サラ、アンヘラも集合し、毎日のように、離宮でお茶会が開かれていた。
警備の為にテルセオ、ルーカス、サラの兄が入れ代わり立ち代わりやってくる。
サラの兄は、『白馬の妖精』の兄に相応しく、かなりの眉目秀麗な顔立ちだった。 この三人が揃った時の離宮は、失神する令嬢で溢れるのではないかと、心配になる位だった。
レオナルド王子が参加する時は、テルセオに合わせた衣装が用意されていたが、令嬢だけとわかると、パブロがイソイソと自分と揃いの衣装を持ち出してくる。
始めこそテルセオは、離宮ですれ違う度に怪訝な表情をしていたが、パブロの事情を知ってからは、見てみぬ振りを決め込んでいた。 公認のようなものだ。
「だって、また、忘れられちゃうかも知れないでしょ?」
「わかる? いきなり『あなた、誰?』って。結構、キツいよ」
「僕だって、エマを飾りたいよ。もう、忘れないように」
―――この数年のパブロの気持ちを思えば、何も言えない。 パブロは、引かなくても良い場面では、好き勝手をしていた。
先日開かれた国賓向けの夜会で、どういうわけか、パブロがエギナ公国側から招待されていた。
「招待されたら、行かないとね」
意気揚々と、エマを自分の色が乗った異国風のドレスで飾り、髪型もやたら凝った物にしていた。 もちろん、ビーズもしっかり編み込んだ。
まるで、南国の王女のような出で立ちのエマに満足したパブロは、自分も南国の王子のような出で立ちで、早速とエギナ公国の迎えの馬車に乗り込んだ。
「アンダクス侯爵子息と婚約間近だったのでは?」
と、高位貴族が、エマに近しい―――いまやエギナ公国のテオドロス公や、テルセオ本人に苦言を呈する。
その度に彼らは、エマとパブロの事情を説明し、彼らの同情を誘った。
いまや、揃いの衣装で『王家の森』近辺を馬で駆ける二人を見る人々の視線は、暖かいものとなっていた。
※※※
いよいよ狩猟大会が開催される。 今夜は前夜祭だ。
離宮は、どこもかしこも貴族と護衛で溢れていた。 色とりどりの令嬢のドレスが、美しく咲き乱れている。
パブロはいつの間にか、『悲劇の貴公子』として人気者になっていて、ダンスを希望する令嬢達に取り囲まれていた。
エマ達は、揃いの『紫色のドレス』で着飾っていた。 エマは、ドレスの縁をエメラルドで縁取る事で、テルセオを意識していた。
「あざといわね」
目ざといセシリアが気付いて、扇の先でエメラルドの縁取りをつつく。
「今日は、テルセオと話せないから……ね」
テルセオもルーカスも前夜祭の間は、警護に当たるので忙しくしていた。
「あとで、ルーカスをからかうの、付き合ってよ」
フフッと、イタズラっぽくセシリアが笑う。
ルーカスとテルセオは一緒にいることが多いので、テルセオに会いたいエマは、セシリアの誘いを快諾した。
サラが少し離れた所で、男性に取り囲まれている。
『愛されている』という自信からなのか、このごろ、より一層魅力的で、たおやかな女性に見える。
「あらあら、殿下の嫉妬心に火が付く前に、助け出さないと」
アンヘラが助けに向かったのだが、彼女も、また、捕まった。
「アンヘラの出会いを、邪魔しちゃ悪いわよね」
助けて欲しそうな顔をしているアンヘラに、エマ達は笑いながらヒラヒラと手を振った。
―――和やかな雰囲気で、前夜祭は進んでいく。
疲れを感じたエマは、パウラと共に休憩室へと向かっていた。
ホールを挟み男女、左右に分かれていたので、必然的に護衛騎士も女性ばかりに見かけるようになった。
そこで、ハタと気が付いた。あの、女性騎士がいるのではないか……。
(会いたくないわね)
休憩室に入ると、軽食をつまむ令嬢達で賑わっていた。 ちょっとしたお茶会のような雰囲気もある。
立ち続けで疲れた足を休めようと、マッサージをお願いしていると、エマを呼ぶ声がした。 ハズキだった。
パウラと並んでマッサージをしてもらいながら、ハズキの恋バナを聞いていた。
ピンク頭の彼、レジー・キッシンジャー伯爵子息。彼に組紐を渡してからというもの、顔を見ると挨拶してくれるようになり、つい最近は、一緒にカフェに寄った。と、嬉しそうに話してくれた。
彼女の恋が上手くいけばいいな、と思いながら、幸せそうなハズキを、微笑ましく見つめていた。
「そういえば、エマって騎士団でも人気者なのね。キッシンジャー様が、エマの話を楽しそうに聞いていたわ」
「何を話したの? 変なこと、言ってないでしょうね」
慌てて確認する。 知らない人に、自分の事を聞かれるのは、あまり良いものではない。
「大した事じゃないわよ。テオドロス様……今はエギナ公爵様だわね、と遠戚だとか、パブロさんが護衛をしてるとか……。あっ、後、テルセオ様と仲が良いとか」
さんざん惚気たハズキは、この後、中庭を警備している彼に会いに行く。と言って休憩室から出ていった。
「ねぇ、好きな人に友達の事、尋ねる?」
不思議に思っていたエマは、パウラに聞いてみた。
「ワザワザ聞かないわね……私も、不思議に思って聞いてたわ……」
「何が知りたかったのかしら?」
エマとパウラは、ハズキが向かった中庭に、訝しげな視線を向けていた。
※※※
休憩室を出た所で、エマは、奥の通路にテルセオの姿を見つけた。
「テルセオ……」
嬉しさに思わず声が漏れ、駆け寄ろうとした所で、暗がりからあの女性騎士が出てきた事に気がついた。
そして、彼女の腕が、彼の身体にまとわりついていた。
(こんな人気の無いところで……)
その女は、優越感を感じさせる足取りで、テルセオに腕を絡ませたまま、エマの隣を通りすぎる。そして、すれ違いざまに
「報告、してただけよ?」
と、小馬鹿にしたように囁き、口の端を上げる。
テルセオは、チラリとエマを盗み見ただけで、何も言わなかった。
エマは、振り返らなかった。振り返りたくない。あの女を見たくない。見たくなかった。
14時




