狩猟大会*五*悔恨
離宮で、目を覚ましたエマに差し出された衣装は、全てパブロとの揃いの衣装だった。
屋敷内で着る分には問題ないだろうと、パブロがこっそり持ち込んでいたようだった。
テルセオの手前、不味いだろう……と、ニオラオスは渋い顔をしていたが、「実は……」と言ってルシア妃が持ってきた衣装も、パブロに似た異国風のドレスだった。
「この衣装を着た私を見て、何か思い出してくれたら……って持ってきていたの」
「お前達……そういえば、同じ服装でイタズラしていたな」
ニオラオスは、懐かしそうにルシア妃の衣装を眺めていた。
※※※
午前中、公務の無いルシア妃とエマは、離宮の庭で何時振りかの手合わせを行った。
小気味良いテンポで鳴る剣の音が、ジリつく日射しにカラッと響く。 額を流れる汗をも、気持ち良く感じ
ていた。
タイミング良くパブロが、良く冷えたアイスティを持って現れた。
木陰で涼みながら、アイスティを飲み干す。 うなじを吹き抜ける風が、心地よい。
異国風衣装をまとい、ビーズを編み込んだ髪を高い位置で一つに縛った、同じ装いの三人が、木陰で佇んでいるのは人目を引くようだった。
通路を渡る来訪者が、ギョッとした様子で一瞬立ち止まる。 その様が可笑しくて、三人は、カラカラと笑っていた。
「また、こんな風に過ごせる日がくるとは、思わなかったわ……」
嬉しそうにルシアが微笑む。 パブロも楽しそうだ。
「次は、結界壁も使ってやりましょうか」
ルシアが剣を持って立ち上がる。 たが、エマはうつむいたまま、動こうとしない。
「エマ?」
不思議がるルシアとパブロ。
「あの時、私が結界を張っていれば……張りにむかっていたら……助けられたんじゃないかって……」
ハッとして、ルシアを見上げるパブロの瞳が、揺れている。
エマの隣に腰を降ろしたルシアは、ソッと彼女を抱きしめた。
「違うわ、エマ。あなた達は、最善の行動を取ったのよ。貴女は、逃げなくてはならなかった。これは、揺るがない事実だわ」
パブロのすすり泣きも聞こえてきた。
ルシアは、優しくエマとパブロの肩を擦りながら、切々と訴える。
あの時、貴女達の最優先の仕事は、逃げて生き延びる事だった、と。
もし、エマが戻ることを選択していたら、パブロは貴女を守るため、命を賭けなければならなかった。 最悪、二人とも死んでいただろう。
だから、あなた達は最善の選択を選んだ。生き残った。だから、間違っていない。
パブロがしゃくりあげる。彼も苦しんでいたのだろうか。 エマは、泣きじゃくりながらパブロに感謝を伝えた。
「私を、逃がしてくれてありがとう」
「どういたしまして、僕のお姫様」
昨日に引き続き泣きじゃくる二人を、ルシアは優しく抱きしめた。
※※※
「あーっ、やんなっちゃう。エマに泣かされるなんて」
パブロが赤く腫れた目で、恨みがましくエマを見下ろす。
「また、ルシアに負けた気がするよ。あいつ、生意気だ」
パブロが手綱を握る馬に同乗したエマは、午後に離宮で開かれる、レオナルドのお茶会の準備の為、一旦、カルタシア家の別荘へと戻っていた。
揃いの異国風の衣装に身を包み、揃いの髪型の二人は、かなりの人目を引いていた。
「お前はまた……面倒な事をしてくれたな……」
カルタシア侯爵が、パブロを見るなり小言を言う。
異国風の化粧をしているエマを、『エマ』と気付いている貴族はいないだろうが、侯爵家に出入りしていたとなれば、何かしらの関係を想像されるだろう。
「大丈夫ですよ、侯爵。ルシア妃も今日、同じ装いですから。 なんなら、滞在中ずっと、その衣装かも知れないですよ」
「それはそれで、面倒……、え?」
侯爵がエマを見る。
「はい、お祖父様。ご心配お掛けしました」
ニッコリ微笑むエマに、安堵の表情を浮かべた侯爵は、ヨタヨタと近付き彼女を抱きしめた。
「あぁエマ。また、いつお前が壊れてしまうかと……。あぁ本当に良かった」
「全て、パブロのお蔭です」
祖父の背に手を回すと、彼が声を殺して泣いているのに気付いた。
「もう、やめてぇ。また、目が腫れちゃう」
パブロの声も、かすれてくる。 エマも再び、泣けてきた。
―――冷ややかなアリスの声が響く。
「お嬢様、お支度の時間が無くなります」
エマの目元に、冷たいタオルが押し当てられた。
明日、9時




