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狩猟大会*二*変身

王家の森の別荘地域を全て回ってのではなかろうか……と思っていた頃、賑やかな音楽が聞こえてきた。

そして、提灯やランタンで一際明るく飾られた、城門の前たどり着いていた。


保安検査の為だろうか、門の前に馬車が何台か並んでいて、御者と門兵が話をしている。。 パブロは、馬上から警備兵に一言二言話している。


(下馬しなくて良いのだろうか……)


エマが心配していると、そのまま馬車の待機列を横目に、馬で通り抜けてしまった。


城門に塔、そして門兵がいる屋敷といったら……『離宮』しか思い当たらない。

パブロは何食わぬ顔で、離宮の石畳を闊歩する。 追い越す馬車の窓のカーテンが、揺れているのがわかった。みな、異国風の私達に興味津々なのだろう。

この姿から『エマ・ベニドニア』は連想出来ないだろう。イタズラ心に火が点った。


そのままパブロは、エントランス通り抜け騎乗のまま中庭へと入ってしまった。

さすがに不味いだろう。と内心焦ったが、当の本人は何食わぬ顔で、手綱を侍従に渡す。

どうやら、騎馬で来場した招待客は、中庭まで入れるようだった。


中庭を、パブロについて回りながら観察すると、王国の有力者のみ集まっているようだった。 商談相手でもいるのだろうか。と、飲み物を受け取りながら、パブロの会話に耳を澄ます。


「私の愛しい人です」


思わずパブロの袖を引っ張った。 パブロは微笑みながら、エマの髪を鋤きながら、耳元に口を寄せる。 シャラシャラとビーズが鳴る。


「別に婚約者とは、言ってないよ」


ニッコリ笑うパブロは、悪魔だった。 今の一連の流れは……テルセオがしていた。

(まぁ、()も『愛しい』家族かもしれないわ)

エマは無理やり自分を納得させた。


そのまま、腕を取られ離宮内のホールへと移動した。

(そういえば、テオドロスのお兄様が、国賓で来てるのではなかったかしら?)


『王家の森』の離宮は、建物が本邸と幾つかの別棟で構成されているが、お互いの棟への行き来は一旦本邸を通らないとならない。完全に独立していた。

そして、本邸に客室はなく、別棟に滞在している客人は、他の客人と顔を合わせることなく、過ごすことが出来る。


なので、本邸のホールにいるエマ達は、別棟の客人に合うことはない。

―――なのだが、真っ先にパブロが挨拶した相手が、エギナ公国第一公子、ニオラオス・エギナ公爵子息だった。 隣には、剣妃と名高いルシア妃が寄り添っていた。

ルシア妃は、エマを見るとニッコリ微笑み

『あなた、エマでしょ。なんの、お遊び?』

と、聞き慣れない言葉で話し掛けてきた。

パブロが、ハッとした顔でエマを隠そうとしたのだが……


『どこかで、お会いしましたか?』

と、エマは同じ言葉で返していた。


「なんで?」

パブロが驚いているが、一番驚いたのはエマだった。 何故か、普通に聞き取れて、自然に言葉が溢れてきたのだ。

「なんでだろ?」


「貴女、テオドロスの教え子でしょ? その時じゃないかしら?」

『この言葉は、エギナの古語だから』

そういって、ルシア妃は微笑んだ。


なんで、エマってわかったんだろう。と不思議がるパブロに、女の目は厳しいのよ? と、ルシア妃は言う。

しかし、何人か顔見知りの令嬢とすれ違ったが、視線を寄越すだけで、エマに話し掛けてこなかった……。


「親しい友人には、わかるんじゃないかしら? 今日は来てないの?」

「パウラが来るはず!」

パブロが、キョロキョロと辺りを見渡す。

「それなら、あそこにカルタシア侯爵と一緒に……」

と、ニオラオス公子が指し示した方向を見ると、分かりやすく驚いているパウラがいた。


『ごきげんよう、パウラ』

イタズラな笑顔で、パブロが声をかける。

『ごきげんよう、じゃないわよ。なにやってんのよ』


(パウラも、この言語を話せるんだ)

エマは、記憶にない言語が解ることに不安を感じていたが、パウラも話せるなら、カルタシア一族にとって、普通の事なのだと安心した。


『パウラ、お願い。エマだけど、エマじゃ無いことにして。僕の愛しい人、って事で』

パブロが必死にお願いしている。

『構わないけど、テルセオもルーカスもいたわよ?あと、テオドロスも。さすがに、ばれるんじゃないの?』


そう言いながら、パブロの袖を引き、耳元で確認する。

「あんた、このシーズン、エマで女避けするつもりでしょ」

「だって、面倒なんだもん」

「はぁ……、知らないわよ?」と言いながらも、パウラは少し大きめの声で言った。


「あら、パブロ。今日は素敵な令嬢と一緒なのね」

「そう、僕の愛しい人なんだ」

とんだ茶番劇だ。


※※※


パウラの元に向かったパブロ達を見送り、ルシア妃はニオラオス公子に尋ねた。


「私達の事、覚えてないのだったわね。失念していたわ……ごめんなさいね」

「仕方ないよ。僕も、懐かしくてバグしたいのを、必死で押さえていたもの」

「母親との記憶が、全部無い……のでしたかしら?」

「そうだね。幼い時に馬車の事故で……って勘違いしたままだ……」


エギナ公主一族の娘が、エマの母親だ。

そして、毎年のように、エマは母と共にエギナ公国に滞在していた。 ニオラオスの婚約が決まった年も、結婚式にも参加していた。

ニオラオス、ルシア妃共に、長い付き合いなのだが……


「あのイタズラも……懐かしいわね……」

ルシア妃は、可愛らしく成長したエマを、微笑ましく見つめていた。


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