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火種

包みを破ったテルセオは、小さく感嘆の声をあげた。

勝利を祈る、月桂樹と獅子に家紋を配置したデザインだ。我ながら渾身の出来だった。

それに、ハズキに習った組紐を付けた。彼の髪色のハニーブラウンと私のダークブラウン。


「ありがとう、エマ。 なんて、素敵なんだ」

「刺繍は得意なの」

喜ぶテルセオを見ていると、プレゼントをして良かった、と思える。 パブロにも、お礼を言わないと。


剣帯に忍ばせた()()()()は、毒の他に『女性避』も縫い込んだ。

パブロに、「これがいいよ。これがおすすめ」と、押しきられた。

彼の言うことは、聞いておいた方が良い。と知っている。

だが、目の前ではしゃいでいる彼を見ていると、あまり必要だとは思えなかった。


※※※


研究所には、久しぶりに出勤したような気がする。 薬品と薬草の入り交じった、複雑な香り。

そして、テオドロスがいなくなった研究所は、少し寂しく感じた。


聞くと、所長から「急な移動があった」とだけ発表されたらしい。

ハズキから「何か聞いてないのか?」と、しつこく問われたが、「知らない」と、逃げている。

狩猟大会で、国賓となったテオドロスを見て、驚くだろう。 まぁ、文句は覚悟しておこう。


ハズキと基地の医務室へ、薬品の補充をするために台車を押しながら向かっていると、後ろから誰かが追いかけてくる足音が響いた。


「ベニドニア嬢」

いつも見掛ける警備兵が、手紙を差し出した。

「先ほど、こちらを受けとりました。直接渡して欲しいと」

手紙を受け取り、封蝋を見る。 テルセオの家紋のように見える。 多少の違和感を感じながら受け取り、尋ねた。

「どなたから?」

「ベニドニア伯爵家の侍女だと言っていました。先ほど屋敷に届いたので、急いで持ってきたと」

「アリスではないのね?」

「えぇ、アリス嬢でしたら、よく知っています」

警備兵は、「では」と言って戻っていった。


医務室で補充を終えた後、エマは、先程の手紙をポケットから取り出す。 手のひらを封蝋にかざすと、やはり嫌な感じがする。

「それは、なに?」

ハズキが手のひらをヒラヒラさせた。エマが、手をかざしていた事が不思議だったのだろう。

エマは、自分の手を見つめる。

(なんでだろう? そうする()()だ。と感じた)


「おまじない?」

そう答えて「団長室に行ってくるわ」と、ハズキに伝えた。


※※※


団長室に向かうと、都合よく団長が在室していた。

入室の許可をもらえたので、先程の手紙を団長の執務机の上に置いた。


「それを、調べてもらえますか?」

「見たところ、テルセオからの手紙のようだが……」

団長は、手紙を手に取り裏表にひっくり返している。


「封蝋を確認してほしいんです。 何故か、嫌な予感がするので……」

団長は直ぐにテルセオを呼ぶように指示を出した。

「それと、これが()()()()()殿()()()()に関係あるのなら、友人達に連絡を取って欲しいのですが」

「あぁ、あの()か……、それなら、今日の昼頃に呼ばれるはずだ。それにしても、お前の父親はすごいな」

団長は、クックッと笑いを噛み殺していた。

「お陰で、警備の見直しをさせられたよ。まぁ、見直した所で、無駄なんだろうけどな」


その時、勢いよく団長室のドアが開いた。


何事かと、ドアの方に顔を向けると、レオナルド王子が、肩を揺らしながら仁王立ちしていた。 走ってきたのだろうか。


「エマ!お前の家はっ、お前達は……いったい何なんだ!」

レオナルド王子は、四枚の紙片を投げ付けた。

エマは、それらを拾い上げ、文字を読む……笑いが止まらない。


ベニドニア家、サラマス家、カルタシア家、ミーニャ家それぞれの家紋と共に『娘に不利な事態が起これば、許さない』とあった。

カルタシア家の紙片には『いつでも、寝首を掻けるぞ』とまであった。

聞けば、朝目覚めると頭の回りにナイフで止めてあったそうだ。


エマはクスクス笑ながら、父の言葉を思い出していた。確かに言っていた、『今夜、縫い付ける』と。


「でも、殿下。 四人も刺客が侵入したのに、目が覚めないのは問題では?」

団長も、同意しながら笑っていた。

レオナルド王子が何か言おうと口を開いたその時、再びノックの音が鳴り、今度はテルセオが入室した。


※※※


「良く似ていますが、我が侯爵家の印璽とは違います」

テルセオの腰には、エマが送った剣帯が巻かれていてた。そして、先程の()()の封蝋を睨んでいる。


「実は、その手紙はベニドニア家の侍女が警備に手渡したそうなんですが、アリスではなかったと。私に関する物事は、すべてアリスを通すことになっているので、ありえません」

それに……と言って、エマは手紙に手をかざす。

「この封蝋……おかしいです」


レオナルド王子が、その手紙を取り上げた。

「よし、調べてみよう。昼には結果を伝えられるように準備するから、王宮に来い。テルセオ、頼んだぞ」


嵐のように去っていったレオナルドを見送り、テルセオは団長に頼んだ。

「すみません、十秒……後ろを向いていてもらえませんか?」

「おう、いいぞ」

団長は、クルリと椅子を回した。 何があるのだろうか?と、エマはテルセオを見つめると、彼が近づいてきて、抱きすくめられた。

「エマ、気を付けてね」

そう言って、触れあうだけの口付けをした。

22時

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