表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/67

告白・二

エマは、心臓の早鐘と羞恥心に耐えながら、何度か聞き直したりして、テルセオの言いたいことを理解した。


レオナルド王子の命で、内密で調査をしている案件があるのだが、あの『女性騎士』が関わっている。

今後、エマに取って不愉快な言動や噂が耳に入るかも知れないが、僕を信用してほしい。


確かに、失礼な内容だった。

あの『女性騎士』と親密な関係……もとい、()()()しなければならない。なんて。


首筋に感じるテルセオの吐息と、背中をためらいがちに触れる指先……。

「もしかして、私を騙そうとしているの?」

「なっ、なんで?」

テルセオが驚いて、エマの顔を覗き込む。


「貴方の色気で、誤魔化そうとしてる?」

「違うよ。僕だってエマに嫌われたくない一心で……怖いから、エマに触れていたいんだ」

「ほら」と言って彼はエマの手を取り、自分の胸に押し当てた。エマの手のひらは、彼の鼓動を感じていた。 かなり早い。


「わかってくれた?」

「―――わかったけど、わかりたくないわ。親しい関係って、どれくらい?彼女にどこまで触れるの?」

エマは、テルセオの手を取り、自分の頬や腰、背中に回した。


「………」

テルセオは答えない。それが、返事だったように思う。

「嫌よ、いやっ!」

テルセオの身体を突き放す。


あの女が、テルセオにまとわりついている姿を想像するだけで、吐き気がする。嫌悪感が込み上げる。

「―――仕事なのよね」

「あぁ……」

「貴方の、その……そうゆう内容の仕事があることは、お祖父様や父は知っているの?」

「重要機関に所属していれば……」

「つまり、知らないって事ね……」


ハァ……。一つ大きくため息をつく。 今更、テルセオを手離せない。もう、離れられない。 少し前なら、悩むことなく婚約破棄してた。確実に……。


「エマ……?」

彼の声が震えている。

テルセオがどうしようもなく自分を()()()()()のは、十分にわかっているつもりだ。

これが、彼の演技だとしたら、お手上げだ。一生騙されよう。

それ以上に、()()彼から離れたくない。


「やっぱり、私、貴方が好きだわ……」


エマは、テルセオの頬を両手で包む。彼の翠玉(エメラルド)の瞳を覗き込み、そこに映る自分を見つける。

(泣きそうな顔……)


「どうしようもなく、貴方を好きになってしまったようだわ……」


テルセオの両手がエマの両手を包む。

「……キスしても?」

「許可制なの?」

フフッと笑うエマの顎を、テルセオの形良い指が掬い上げる。


―――触れあうだけのキスをした。


おもむろにベンチから立ち上がり、テルセオは地面に膝をついた。

「―――エマ」

彼は、エマの左手を取りテオドロス色の手袋を外す。そして、彼女の手の甲を、自分の額につけ、懇願する。

「エマ、僕と結婚して欲しい」


エマは、目の前に(ひざまず)くテルセオを見下ろす。 この王都で、この美丈夫を(ひざまず)かせられるのは、私だけなのだろうか。

優越感が込み上げる。 あの女に彼は(ひざまず)かない。

―――そう確信した。


「はい」


破顔一笑した彼は、自分の指から指環を外し、エマの左手薬指にはめる。

魔法がかかっている指環らしく、エマの指に合わせて大きさが変わった。


頭上に手の甲を掲げたエマは、何か古代文字が書かれた指環を眺める。

「僕の家に代々伝わる指環なんだ」

エマの隣に腰かけながら、彼は満足そうに、そう教えてくれた。


「一つお願いがあるのだけど……聞いてくれる?」

「僕に出来る事なら」

テルセオは、ニコニコと笑っている。


「私以外の女性の唇に触れないで、そして、(ひざまず)かないで」

「了解……」

そう言いながら、テルセオの手がエマの頬を包み、彼の顔が近付いてきた。


「いたっ」


テルセオが、小さく声をあげる。 エマが彼の親指に噛みついたのだ。


「王宮騎士団の隊長に、噛みつけるのは、私だけよね?」

テルセオは、歯形が付いた自分の親指を見つめて、クスクス笑っている。

「やることが、いちいち可愛い」

そう言って、再びエマの頬に手を当てる。


「もう、噛まないでよ」

「もう、許可取らないでよ」


そう笑い合いながら、口付けを交わす。 段々と深くなる口付けに、思考が飛びそうになるエマだったが、彼女は、まだ知らなかった。


テルセオの告白の本当の意味を。


※※※


ホールに戻ったエマとテルセオは、侯爵夫妻と伯爵に婚姻の意思を、左手の指環と共に伝えた。


カルタシア侯爵は、アンダクス侯爵邸に早馬を出し、明日、訪問したい旨を伝えた。 すると、直ぐに早馬で帰って来て、『明日の夕刻、お待ちしています』とあった。


この返信の速さからもわかるように、アンダクス侯爵家もエマとテルセオの婚姻に、気を揉んでいたのだろう。


―――そして、カルタシア侯爵邸の夜会は、お開きとなった。

22時

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ