告白
ホールに戻ったテルセオは、エマの姿を捜す。パウラは人混みの中に紛れていた。 年頃の令息に囲まれているようだが、そこにエマはいない。
パウラに近付き、さりげなく令息の輪から助けだすと、エマの居場所を訪ねた。
彼女が言うには、カルタシア侯爵とベニドニア伯爵と話をしているはずだと言う。
パウラが指し示した方向へ進んでいくと、いた。エマが侯爵夫妻、伯爵と一緒にいた。 なんて、都合がいいのだろうか。
コツコツと足音を鳴らしながら、逸る気持ちを抑えつつ、エマ達に近づく。
「カルタシア侯爵、ベニドニア伯爵、お話があります」
※※※
別室にてテルセオは、自分の決意を侯爵夫妻と伯爵とエマ本人に告げた。
「やっとエマに心が通じたのね」
夫人の喜びようといったらなかった。 それも仕方がない。エマは、つい最近まで『婚約破棄してほしい』と訴えていたのだから。
そんな中、エマだけがキョトンとしていた。
「エマ、お前、今何が起きているのか、わかっているのか?」
ベニドニア伯爵が心配して、エマに尋ねるが、彼女は不思議そうにしているだけだった。
鈍いというか、天然というのか……
「あなた、今、結婚を申し込まれているのよ?」
侯爵夫人がエマをつつく。そして、気が付いた。
「まさかとは思うけど、テルセオ。あなた、プロポーズした?」
侯爵夫人が、空席のあるエマの左手を持ち上げた。
「あっ……」
テルセオは絶句し、夫人達は呆れ返る。
「温室が開いているから、そこを使いなさい」
侯爵夫人が、シッシッと手で追い払う。
失笑の中、テルセオはエマの手を取り、足早に部屋を後にした。
「大丈夫なのか? 」
苦笑いをしたカルタシア侯爵は、二人の後ろ姿を見送った。
※※※
エマの手を取り、テルセオは努めてゆっくりと歩く。別室を出て、長い廊下を彼女の手の温もりを感じながら、出来るだけ、ゆっくりと。
時折、歩みが早いのでは?と思いエマを確認するが、彼女は頬を赤らめ、軽やかにテルセオに付いてきていた。
(あの先に……温室がある)
テルセオがエマの顔を覗き込むと、アクアマリンとオレンジが微妙に混じり合う、神秘的な眼差しに吸い込まれそうになる。
テルセオはエマの指を自分に絡ませた。そう、しっかりと。
※※※
街灯に照らされた闇の中に温室はあった。 夜会の途中、散策できるようにと街灯に照らされた中庭の、丁度真ん中あたりに、その温室はあった。
ゆっくりと温室のドアを開けたテルセオに、肩を抱き寄せられたエマは、月明かりに照らされた温室内の植物達に感激していた。
昼間とは違う見え方をする草花達に、感嘆の声をあげる。
「エマ」
とろけるような、柔らかく優しい声でエマを呼ぶ声に振り返ると、テルセオがベンチへと手招きしている。
誘われるように、エマは隣に腰かけた。
テルセオがエマの両手を取る。 彼の形が良い、それでいて少しゴツゴツしている指が、手袋越しに感じられる。
彼の手が……指が……エマの首筋の髪をかき揚げる。 何度か往復していた指の動きが止まった。
「エマ……」
絞り出すような彼の声。彼の吐息を首筋に感じ、ゾクッとする。 そして、止まっていた彼の指が、ためらいがちに動き出した。
今日のドレスは、背中が腰あたりまで深く開いている。その事を思い出したエマは、急に恥ずかしくなった。
(背中が……背中が丸見えだわ)
慌てて身をよじろうとしたエマの腰を、テルセオはガッチリ押さえ込む。 スゴい力だ。
「ヤツの色なのが、気に入らない」
エマの首筋にそう言いながら、腰に回した手はそのままに、テルセオの指がエマのうなじから、背中へとゆっくりと、躊躇いがちに降りていった。
「テルセオ……くすぐったい」
背中を降りていく指がくすぐったい。ゾワゾワする。
エマは思わず、テルセオの背中に腕を回した。
「エマ……この前、まだ話していない事があるんだ。聞いてくれる?」
「何かしら?」
テルセオは、エマの背中を撫でながら耳元で話し出す。彼の甘えるような、低い声に思考が飛びそうになるのを、エマは必死に耐える。耐えたのだが……。
「……なんだ……」
(あぁっ!もう、無理!)
エマは、ガバッと身体を離す。
「テルセオ……」
急に身体が離れ、テルセオは少し驚いているようだった。
「その……あまりくっついてると……ドキドキしすぎて何も聞けないわ」
プハッと笑うテルセオは、エマの頭を撫でながら、謝った。
「でも、僕はくっついて話したいんだ。ちょっと、言いにくい内容なんだ」
すがるような翠玉の瞳に絆される。
「わかったわ。頑張ってみるわ。その代わり、初めからお願い」
わかった。と言いながらテルセオは、優しくエマを抱きしめる。そして、また、エマの肩に顔を埋めた。
20時頃




