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カルタシア家の夜会・二

パブロから差し出された手に、サラが無意識に手を重ねた瞬間、勢いよくテラスのドアが開かれた。

「サラ!」

レオナルド王子がサラを呼ぶが、彼の目には手を取り合うパブロとサラが映る。


「サラ、君って人は……」

言い終わるかどうかのタイミングで、サラはパブロの腕の中にスッポリと収まっていた。

「レオナルド殿下、僕のパートナーに何か?」

パブロは、シレッと嘘をつく。

「―――お前、何者だ」

「カルタシア侯爵の縁者……とでも言っておきましょうか」

後ろを振り返りテルセオの顔を見たレオナルドは、彼が頷くのを確認し、納得したようだ。


「そんな事より、公衆の面前でご令嬢方を怖がらせて、どういうつもりなのかな? せっかくのテオドロスの夜会が台無しじゃないか、ねぇテオドロス」

いつの間にかテラスにいたテオドロスに、パブロは笑顔を向ける。


「本当に」

明らかに不機嫌な声色で、テオドロスは、()()言い放つ。

「そろそろ夜風で身体が冷えるんじゃないかな? エマ、パウラ、ホールに戻ろうよ。サラ嬢は僕と一曲踊ってくれる? いいかな?パブロ」

白々しいやり取りをした彼は、パブロの腕の中からサラを預かり、エマ、パウラと共にホールへと戻って行った。


サラは、何が起きているのか理解できない様子で、誘われるまま、テオドロスに付いった。

テオドロスと並び、レオナルド王子を通りすぎるエマを見た、彼、レオナルドの顔は、説明しがたい程の悲しげな表情(かお)をしていた。


その様子を目撃してしまったエマとパウラは、とんだイタズラをしてしまった。と後悔しながら、急いで彼らの横を通りすぎた。


※※※


「サラ・コエーリョ伯爵令嬢、白馬を操る銀髪の美しい令嬢で有名だよね。通称『白馬の妖精』だってね。 品行方正で評判もいい、そして、適齢期の令嬢。そろそろお見合いの話が本格化しそうだよね?ねぇ、殿下」

パブロはレオナルドを挑発していた。


「パブロ、止めろよ」

テルセオが止めに入るが、パブロは止めない。


「いいの?何も言わないで、何もしないで……このまま誰かがサラと婚約しても」

「―――良いわけないだろ、でも、俺は……」

レオナルドはうつむき、拳を握りしめた。 王族の自分は……国の為になる婚姻を結ばないといけない。そう、この()()()になる婚姻を……


「フハッ、いいね。()だって。ハハッ」

嬉しそうにパブロは笑う。

「たぶん、今頃、国王夫妻が内密に到着してる頃だよ? 侯爵に会いに行ってごらん?」

「はぁ?」

レオナルドは驚き、顔を上げる。

「自分の()が、国の()になるって、考えた事、ない?」


その時、侯爵邸に向かって走ってきている馬車のカンテラが見てた。 その灯りを見つけたパブロは、レオナルドに伝える。

「コエーリョ伯爵夫妻も来たようだよ。ほら」


レオナルドは、パブロの横に駆け寄りテラスの手摺から、下を覗き見る。

カンテラの灯りに照らされた馬車の家紋は、確かにコエーリョ伯の物だった。


「―――お前、何者だ?」

()を追及する、ただの商人です。殿下」

恭しく頭を下げ、礼を取るパブロを見下ろしたレオナルドは、どこか吹っ切れた様子で、笑いながらホールへと戻っていった。


「パブロ……お前、本当に何者?」

「エマを大好きな商人だけど?」

「止めてくれる? 冗談に取れないんだけど」

テルセオは、パブロの隣に歩み寄った。 二人はテラスに置かれたベンチへと移動した。


「エマとのこと……本当に感謝している」

「いいよ、別に。 その代わり、何かあったら、いつでもエマを拐う準備はしてあるから、気を付けて」

「テオドロスといい、お前といい……エマはスゴい奴等に気に入られてるな」

ため息をつきながらテルセオは言う。

「敵わないや……」


その言葉を聞いた瞬間、パブロがテルセオの胸ぐらを掴み上げた。

「僕達からエマを取り上げたのは、君だよ? そんな情けない事を言うなら、いますぐ返して」

商人とは思えない力で、締め上げられる。 やっとの事でパブロの腕を外したテルセオは、しばらく咳き込んでいた。


「どうなの?僕達に替わって、エマを守り抜く気持ちはあるの?」

再びパブロはテルセオの胸ぐらを掴み上げる。 彼の漆黒の瞳が、テルセオの心を覗き込む。


「守る、必ず守り抜く」

かすれる声で、テルセオは答えた。

「任せたよ」

パブロはパッと手を放し、テルセオはその場に座り込んだ。パブロは漆黒の瞳でテルセオを見据えたまま、冷ややかに言い放つ。


「中庭に温室あるの、わかる?」

「―――あぁ」

侯爵邸には、何度か来たことがある。 夫人自慢の温室だ。

「そこなら、しばらく誰も行かないはずだよ」

「え?」

「鈍いなぁ……もう……」

そう言いながら、パブロは自分自身の指をトントンと指し示す。 そこには指環が光っていた。

ハッとして、テルセオは自分の指を見る。いつもは、指環なんかしないのに、今日は何故か填めて登城したのだ。 それも、代々伝わるアンダクス家の指環を……。


慌てて立ち上がったテルセオは、エマを求めてホールへ戻った。

一人テラスに残ったパブロは、星が瞬く夜空を眺めながら、「良い仕事したなぁー」と座り込むのでした。



本日中

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