カルタシア家の夜会
テオドロスと彼色に染まったエマが入場し、夜会が始まった。 テオドロスは片時もエマを離さない。 常に、彼女の隣を陣取っていた。
確か、アンダクス卿と婚約の話があったはずでは?と、眉をしかめる貴族がいるかと思えば、ベニドニア伯爵令嬢に失礼な事をすれば、エギナ公爵が黙っていない。という、牽制に受けとる貴族もいた。
テオドロスと二人並び、挨拶回りを続ける。 懐かしいグレタ騎士団の面々にも会えた。 一通り回った所で、テオドロスと別れパウラとサラを捜しに行く。
彼女達は、直ぐにわかった。 一際大きな集まりになっていた。 さすが、『公開お見合い』といっただけの事はある。
ボーイから果実水を受け取り、苦笑いをしながら彼女達に近付くと、エマに気付いたパウラがサラを連れて、輪から逃げてきた。
「覚悟はしていたけど、さすがに疲れたわ。エマが来てくれて助かった」
果実水をパウラに手渡すと、一気に飲み干した。 サラにも手渡すが、彼女はチビチビと喉を潤している。
「でも、あの中からパウラの伴侶が選ばれるのでしょ? みなさん、良い方に見えたわ」
サラがチラリと先ほどの輪の名残を眺めた。
「この人は、っていう方はいないの?」
サラがパウラに訪ねるが、気の無い返事しか返ってこない。 昔から知った仲なので、特別な感情は持っていないそうだ。
「強いて言えば、物の考え方が似ている人がいいわね」
パウラがチラリと見やった方向に、一人の男性がいたように見えたが、誰か……まではわからなかった。
「パウラ、エマ」
急に名前を呼ばれた。この声は……。
「パブロ!」
透け感のある色違いの生地を重ね、微妙な色の移り変わりが楽しめる衣装を身に纏った彼は、どこかの王子のようだ。 金銀の糸で刺繍された南国風の模様が異国情緒を漂わせる。
元々が、異国風の顔立ちなので、より衣装が映える。
髪に編み込んだビーズが、彼の動きに合わせてシャラシャラと、清々しい音を奏でる。
サラにパブロを紹介し、一言二言話をすると「テオドロスに挨拶してくる」と、彼はフラフラと立ち去った。 その後ろ姿を見送ると、サラが不思議そうに聞いてきた。
「彼は何者?」
エマとパウラは顔を見合わす。 今まで考えたことがない。パブロはパブロだ。いつも私達の側にいた。
「マルガ海を股に駆ける商人で、私達の兄様?」
私達は、笑いあった。
※※※
夜会も終盤に差し掛かった頃、入口付近がどよめいた。 ちょうどエマは、パウラ、サラと共に知り合いと談笑中だった。
そのどよめきは、人垣を二つに割ってゆき、エマ達の前が急に開けた。
何事かと思っていると、人々の視線の中央にはレオナルド殿下がいた。
まさかとは思っていたが、本当に現れるとは想像していなかった。 パウラとサラも同様だろう、身動ぎ一つできず、レオナルド殿下を見つめている。
「ずいぶんと楽しい事をしてくれるね」
抑揚の無い、感情が読み取れない『王族の声』だ。 だが、どことなく苛立ちが感じられた。
そして、彼の後方にはテルセオとルーカスまでもが、儀礼用の騎士服を着て控えていた。
彼等もいつも以上に無表情だった。
慌ててカーテシーをするが、なぜか恐怖を感じ顔を上げる事が出来ない。
「―――顔を上げなよ」
恐る恐る顔を上げると、光の感じられない紫水晶が、サラに刺すような視線を向けていた。
「これはこれは」
背筋が凍るようだった私達の間に、祖父のカルタシア侯爵が入ってくれた。
「内々の夜会にワザワザお越しくださるとは、エギナ公爵も感謝するでしょう」
気が付けば、テオドロスとパブロまでが近くにいた。
「今日は、わが兄と一緒なのでは?」
『わが兄』テオドロスの兄といえば、エギナ公国の時期公主だ。
―――助けに来てくれたのかと思いきや、より雰囲気が悪くなったように感じる。
「ねぇ、難しい話は男同士でしなよ。 サラ嬢おいでよ。エマもパウラも」
飄々としたパブロが、私達を外のテラスへと誘導してくれた。
※※※
星が煌めく夜空の下、爽やかな夜風が吹き抜けるテラスで、私達は一言も発する事が出来ない。
些細なイタズラのはずが、大事になっている。
まるで叱られた子供のように、私達はパブロの前に立ち尽くす。
「ハハッ」
急にパブロが笑いだす。
「男の嫉妬心ってすごいよね。この間はテルセオで、今度は……王子様なんて。 王子も嫉妬するんだね」
「ねぇ……もしかして……」
弾むような声で、パウラが口を開いた。
「レオナルド殿下って……」
「しっ」
パブロが指を立てた。そして、おもむろにサラへと手を伸ばした。
明朝 9時




