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パウラのお茶会

いよいよ『サラは殿下の想い人なのか?』を確認するお茶会の当日になった。


「今日は、パウラとお茶会だから登城はしない」と伝えてあったのだが、テルセオが花束と共にやってきた。


「エマがいない城に興味ないよ。 僕もお茶会に行こうかな? サラマス伯爵夫人には、久しくお会いしていないし」


迷子の仔猫のような、すがる瞳に心が揺れるものの、ここで(ほだ)されてしまっては、パウラの悪巧みが失敗してしまう。


「王宮騎士団の隊長がそんなのでは、示しがつきませんよ?」

と、最もらしいことを言ってはみるが、心が痛い。 正直に言えば、一緒にいたい。

そんな気持ちを知ってか知らずか、テルセオはなかなか登城しようとしない。


「テルセオ様、私も一緒にいたいと思ってます」


正直に言った方が得策。と学習したので、本音を伝えてみた。

一瞬怯んだテルセオは、苦笑いをしながら騎士団へと向かった。

「エマには、(かな)わないな」と言いながら。


※※※


昼過ぎに開催された『パウラのお茶会』は、奇妙な盛り上がりをみせていた。

サラマス邸の中庭あるガゼボに、エマ、セシリア、サラ、アンヘラ、そして主催者のパウラが円卓に座っていた。

ガゼボは、良く手入れされた薔薇園の近くにあり、風に乗って甘い薫が流れてきた。


話題はもっぱら、『サラが、レオナルド王子の想い人だったとして、どうするのか?』だった。 やはり、王妃教育はあるだろうから、遊ぶなら今シーズン中だけなのか、寂しくなるわ。等々。


しかしながら、アレハンドロ第一王子の婚約者が決まらないことには、話がすすまないだろう。という所で落ち着いた。

それに、肝心のサラがイマイチ乗ってこない。好かれている()()というのは、嬉しいらしいが、「第一、家格に差がありすぎて、想像が追い付かない」と、相手にしない。


その後は、王妃のお茶会に、何処の令嬢が呼ばれるだろうか……と予想を立てたりと、楽しくお茶会は進む。


そして話題は、テオドロスに移った。 皆、エマとパウラの遠戚である事は知っているが、それだけだった。


「エマは寂しくなるわね。テオドロスに、ベッタリだったものね」

パウラが、からかうようにエマを見る。 確かに、事ある毎にテオドロスは側にいた。 いつも、助けてくれた。 これから、一人で大丈夫なのだろうか?


「私、一人で大丈夫かしら?」


エマは、急に不安に襲われる。 幼い時分に、母親が馬車の事故で亡くなってからというもの、何時いかなるときも、テオドロスが側にいた。

離れていたとしても、一ヶ月を越えることは無かったように思う。 研究所でも、姿は見えなくても存在は、常に感じられた。


「テルセオ様がいるじゃない。大丈夫よ」

アンヘラがエマに近寄り、彼女の肩を抱く。 気が付けは、エマの頬を涙が伝っていた。

考えないようにしてはいたのだが、やはり不安なのだろうか。


「私達もいるわ。いつでも頼って」

サラもセシリアも、笑顔でエマを励ます。


―――パウラは安心していた。 エマは、学園に通っておらず、社交も始めたばかりで『友人』と呼べる令嬢がいないことを危惧していた。

でも、今、エマの回りには『良い友人』がいるように思う。 姉として、エマの社交の手助けが出来たことを、嬉しく思っていた。


そうこうしている内に、夜会の準備を始めないとならない時間がやってきた。


名残惜しそうにセシリアとアンヘラは、迎えの馬車に乗り家路についた。

サラは、パウラの悪巧み通り、サラマス邸で夜会の準備に入り、エマも急いでベニドニア邸へと戻る。


※※※


侍女達の手にかかり、テオドロス色に変わっていく自分を不思議な思いで見ていた。 時折首筋を見ながらブツブツ言っているのは、()()のせいなのだろうか。 セシリアに『侍女泣かせ』と言われた……。


(虫刺されだと思ってたのよね)

ヴァーレの自然の中では、虫刺されなんて普通だと思っていた。 それが、アリスに()()と指摘された。

その時の恥ずかしさといったら……。


鏡の中の自分を見つめながら、エメラルドに染められていった時ほどの高揚感を感じられない、と感じていた。 テオドロスのゴールドと、自分自身のオレンジが近い色味だからなのだろうか。


明日、テオドロスは『エギナ公爵』として紹介され、狩猟大会の賓客となる。 今までのように、王宮で気軽に声を掛けられない。 そもそも、顔を合わす機会があるかどうか。


鏡の前で一回りして、全身を侍女達と確認する。 彼女達は、満足げに頷いていた。


―――コンコン


ためらいがちなノックの音が響き、侍女がドアを開けると、テオドロスが立っていた。

エマを見る表情(かお)は『無』だった。 なんの感情も感じ取られない。

「テオドロス?」

不安になったエマが声をかけると、とたんに破顔一笑する。

「どう?王族ぽかった?」

「機嫌が悪いのかと不安になったわ」


ホッと安堵し笑ったエマは、テオドロスに向かってゆっくり歩きだす。 彼は両手を広げた。 瞬間、エマは駆け出し、彼の首に飛び付いた。


「もう、飛び付けなくなるのよね?」

「そうだね」

―――そう答えながら、テオドロスは苦笑いする。 エマは……パウラもだが、何か勘違いをしているようだ。 身分を明かした所で、エマ達の遠戚なのは変わり無いので、今まで通りなのだが……。今まで通りにさせるつもりだ。

しかし面白いので、勘違いを訂正するのは止めた。


テオドロスは、エマを抱えてグルグルと回しながら

「今日は、楽しもうね」

と、嬉しそうに笑う。


しかし、侍女達だけは、せっかくセットした髪やドレスが乱れていく様を眺め、小さな悲鳴を上げていた。


next 20:00

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