最高の出会い
『テルセオには、昔から想い会っている令嬢がいる』
その話は、真しやかに広まっていったようだった。
お茶会での同情したような視線、腫れ物に触るような会話……。
「ごめんなさいね、初めてお会いするのに……」
困惑した表情で語り掛ける主催者のセシリア・ミーニャ伯爵令嬢は、テルセオの幼なじみだと聞いた。
彼女から彼の幼い時の話を聞けたら……と思って誘いに乗ったのだが、タイミングが悪かった。いつの間にか面倒な事になっていた。
なぜなら、彼女こそが『想い会っている令嬢』の一人と噂されていたからだった。
パウラが一緒で良かった。本当に。
「いえ、テルセオ様のお話が聞きたかったので」
努めて笑顔で返す。 が、回りの令嬢は凍りつく。
「これじゃ、何も話せないわね……」
セシリアはため息きながら、同席を求めてきた。
「単刀直入に言えば、あの噂はデマよ。彼は、女性嫌いだと思っていたもの。 まぁ、幼なじみのよしみで、他の令嬢よりかは、話はしていたでしょうけど。それだけよ?」
セシリアは真剣な顔で、そう宣言した。
「それに遠征に出かけた時、彼の腕にあったハンカチは……あなたのでしょ?」
「えぇ」
あんな小さなハンカチが、人の目に止まるなんて思ってもみなかった。
セシリアとパウラは顔を見合せ、同じ事を言った。
「大丈夫よ」
「大丈夫だわ」
「少なくとも、私達の知っているテルセオは、女性からの贈り物は、一切受け取らないから」
「たとえ、どんなものでもね」
「私が焼いた、誕生日のクッキーも突き返してきたもの」
セシリアは、コロコロ笑う。
それにしても、いったい何処からそんな話がでてきたのだろうか? 三人で首を捻るが、わからない。
とりあえず、悪意のある噂だと面倒なので、人から渡された飲み物には、口をつけないように注意された。
「何かしらの薬を入れられている事もあるからね、でも、ここの食事は安心して、私が責任を持つわ」
セシリアは、そう言い残して次のテーブルへと向かっていった。
セシリアと会話している様子を見て、令嬢達の警戒が溶けたのだろうか、ヒリついた雰囲気が無くなった。
その後は、席を移動しながらお茶会を楽しんだ。話題は、もっぱら『狩猟大会』だった。
やはり、テルセオとルーカスに人気が集まっているようで、今年はテルセオが参加すると、もっぱらの噂のようだ。
エマに、テルセオが参加するのか尋ねてくるのだが、わからない。としか答えられない。
参加するかどうかも話題になるのだから、人気の程が知れる。
女性も参加できるようなので、エマはそっちに興味があった。
幼い頃過ごしたカルタシア領でも、その後のベニドニア領でも、護身と馬術の訓練はしていた。 中でも騎射は好きだった。
話を聞いていると、参加する予定でいる令嬢は少なからずいるようだ。
「ねぇ、パウラ。 私も狩猟大会に参加できるかしら?」
「招待状はくるはずよ?」
「そうじゃなくて、こっちの方」
エマは、弓を引くポーズをとる。
「あぁ……」と言って、パウラはうなずく。
「返信に、記入すればいいのではなかったかしら? 確か……あぁ、ちょうどいいわ」
パウラは、一人の令嬢に声をかけた。 その彼女は、凛とした雰囲気を醸し出していて、風に揺れる銀髪が美しかった。
「彼女は、サラ・コエーリョ伯爵令嬢、昨年の狩猟大会に女性の部で参加していたわ」
互いに挨拶を交わした後、サラと呼んで欲しいと言われた。
「なるほど、エマ様も大会に出たいと?」
「えぇ。なので、大会の事を詳しく聞きたいの」
狩猟大会は、男性は放たれたウサギや野生動物を追うのだが、女性は騎射で的を狙うのだとか。
「それなら、私でも出来そうだわ」
エマの顔が、パアッっと輝く。
「もしよろしければ、我が家の騎射場で練習しますか?」
「騎射場があるのですか?」
タウンハウス内に騎射場を持っているなんで、どれだけ広いのだろうか。
驚いているエマの考えが通じたのか、サラはやんわりと否定する。
「我が領地は王都より近いので、毎年、狩猟大会前に、一度戻って練習しているんです」
二つ返事で、承知したものの、迷惑ではないか?と心配になった。
なぜなら、今さっき知り合ったばかりなのだから。
「大丈夫ですよ。毎年、パウラもセシリアも泊まりで遊びに来てますし、他に毎年参加する令嬢も数人来ますから。それに、いま話題のエマ様を、もっと知りたいという好奇心もあります」
パウラも、横から一緒に行こう。と、急かしてくる。
「それでは、よろしくお願いいたします」
「後で、招待状を送らせていただきますね」
爽やかなそよ風のような令嬢だった。 とても良い友人になれそうだ。
「パウラ、ありがとう。とても良い方達と知り合えたわ」
セシリアといい、サラといい、今日のお茶会は最高の出会いがあった。




