ハズキの恋
騎士団に最後の納品を終え、ハズキのお気に入りを探しに来た。
ハズキの意中の彼は、まだ、正面広場に来ていないようだった。すでに、城門の向こう側には令嬢達が集まって来ている気配がある。
広場にも、若干令嬢の姿が見えるが、彼女達は家族や婚姻の決まっている令嬢らしい。
―――ちなみに、エマとテルセオは、まだ教会の承認を得ていないので、正式には婚約中とは言えない。
「どこにいるんだろう」
柱の影から、遠目に広場を凝視している。
ハズキの意中の騎士は、面識が無いので探しようがなかった。手掛かりは、ピンクがかったプラチナブロンドだけなので、目を凝らして『ピンク頭』を探す。
「誰を探しているの?」
背後から声をかけられ、ピンク頭の騎士を……と答えながらハッとする。 この声は、テルセオ?
慌てて振り替えると、騎士団の儀礼服を身にまとう、不機嫌なエメラルドグリーンの瞳に見つめられる。
「―――嬉しい」
不機嫌なテルセオでも、会えて嬉しい。 昨日までは、どんなに彷徨いていても会えなかった。
エマの答えに、テルセオは一瞬で破顔した。
「あっいた! エマ、ちょっと行ってくるね」
ハズキが駆け出した先に、ピンク頭の騎士が見えた。
テルセオの存在を背中に感じつつ、手を組み、ハズキの成功を見守る。
―――無事、組紐を受け取ってもらえたようで、エマの方に手を振っている。ピンク頭の彼も、こちらに向かって頭を下げた。
そこで、ふと思った。
「テルセオは、騎士団で何をしているの?」
「えっ?」
絶句した彼の瞳が見開かれ、そして、笑いだした。
「そうだよね。僕たち、何も話してないものね。戻ってきたら、僕の事をなんでも教えてあげる。エマの事も教えて?」
(この人、こんなに話せるんだ……)
嬉しそうにエマを見つめるエメラルドの瞳に吸い込まれそうになる。
「今、何を考えてる?」
エマの髪を指で鋤きながら、テルセオは問いかける。
「こんなに、話せるんだ……って、驚いてます」
その時、笑い声が聞こえ、テルセオの後ろ、廊下の影から騎士団の儀礼服が覗いた。
少し癖のあるプラチナブロンドを後ろ手に結んでいる、柔らかなアメジストの瞳……。
「殿下」
慌ててエマは、カーテシーをする。
「君が、エマだね。 テルセオから話は聞いてるよ。今度の狩猟大会が楽しみだ」
狩猟大会?それが、どう関係あるのだろうか。 テルセオを見ると、顔を背けているが頬が赤い。
「狩猟大会は、捕った獲物を愛しい相手に捧げる大会でもあるんだよ。今まで、彼は君がいないからって、僕の護衛に逃げていたんだ。今年は、参加するんだよね?」
そんな話は初めて聞いた。私がいないから、捧げる相手がいないから……って。
テルセオが恥ずかしそうに、顔を覆った指の隙間から、チラリとエマを見る。
そんな話をしている所にハズキが戻ってきて、狩猟大会の話は、そこまでとなった。
※※※
騎士団の出立式に立ち会ったエマに、テルセオは彼女のハンカチが結ばれた腕を上げる。
ハズキとエマは、小さくなっていく騎士団を見送った後、研究室へ戻っていった。
「ハズキ、狩猟大会って何?」
どうしても気になって、途中、我慢できず聞いてみた。
「エマ、見学に行くの?私も毎年行ってたわ」
彼女の説明では、王宮で開かれるお茶会のようなものだという。場所が、狩猟場―――森になっただけだと。 王都に居を構えている貴族に招待がくる、王室主宰のお茶会だと思えばいいそうだ。
男性は狩猟に興じ、獲物の数だか大きさだかを競うそうだ。そして、順位付が行われると一緒に、その獲物を意中の令嬢に捧げる名目で、男性からの告白があるそうだ。
言うなれば、公開プロポーズだ。
「もしかしたら、告白されるかもって毎年参加していたんだけどね」
ハズキが、遠い目をしている。
「エマは、初めてなのね。今まで彼に誘われなかったの? 殿下の護衛で参加してないのに、応援の花を馬に飾られて、すごい事になってたわよ」
どんな令嬢から、花を贈られたのだろうか?
「この前の夜会で、それらしい令嬢は一人だけだったけど……」
ハズキは、カラカラ笑いながら教えてくれた。
「みんな、エマに遠慮してるのよ。まだ、正式に承認されてないけど、エマが婚約者だっていうのは、公然の事実だもの。でも、狩猟大会の花は、そういうの関係ないの。 結婚していても、他の男性に花を贈れるのよ」
なんてすごいシステムなのだろうか。呆気に取られているエマに、ハズキが忠告する。
「テルセオ様は、エマしか見ていないって、わかっていると思うけど、心無い令嬢の戯言に、惑わされないでね」
「ペーパーナイフは、片付けておきます」
ニヤッと笑ったエマを見て、大丈夫そうね、とハズキは笑った。
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