表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/67

懺悔

エマは、自宅のベッドの上に寝転がっている。 今日は何もしたくない。 昨日の夜会で疲れたせいなのだろうか?ヤル気がわかない。


父や侍女達、特にアリスが心配して、熱を測ったり、薬湯を運んでくれたりしたが、体調は悪くない。 強いて言えば、心が痛い。


昨日のイタズラが大事(おおごと)になってしまった。 失礼な令嬢が、大騒ぎしたのだ。


「テルセオ様、私も相手をしてください」


そう、大声で騒いだのだ。


人気の無いテラスの暗がりで、婚約者がいるにも関わらず、他の令嬢と二人きり。

そこに、「私も」と言い出す令嬢がいれば……。悪意のある噂がいくらでも作れる。


今朝早く、テルセオから届いた手紙が、サイドテーブルの上に乗っていた。

怖くて、読む気になれない。立ち上がり、手紙をダストボックスに捨てる。


私はなんて、自分勝手なのだろうか。自分の事しか考えていなかった。


トルソーに掛けられた、テルセオ色のドレスと宝石達の前に立ち、ボンヤリとドレスを眺める。

彼の艶のある瞳と同じ、エメラルドグリーンのドレス、彼の心のような、透き通ったエメラルドの宝石……。


(返さないと、私には無理だわ……)


エマは、自分の両手を見つめる。 昨夜のテルセオの吐息の暖かさを思い出す。

いつぞやの、舐められた指先の艶なまめかしい感触。


頬を何かが流れるのを感じて、手で拭うと、仄かに温かかった。

こぼれ落ちる涙は、拭っても拭っても溢れてくる。 情けない。こんなに情けない気持ちになったのは、初めてだ。


(私は、テルセオに恋してしまっている)


なんて最悪なタイミングで、自覚してしまったのだろう。もどかしい。悔しい。情けない。


彼に愛されているかも、なんて思った自分が恥ずかしい。 彼は、私のために()()していただけなのに。

私の名誉回復の為に、好きでもない私に……。


忙しい中、半月もかけて領地まで来てくれた。

ひどい噂が流れている時だって、時間を作って一緒にいてくれた。

甘いものが嫌いなのに、パンケーキを食べてくれた。

この、ドレスだって、この宝石だって……。


みんな、みんな()()なのだ。

定められた婚姻の為、家の為に必要な演技だったのだ。

それなのに、私は勘違いをした挙げ句、嫉妬心で彼の名誉を傷付けてしまった。

あぁ……、それなのに……。


どんなに、テルセオに愛されてない。愛していない。と思い込もうとしても、心が拒否する。

彼に愛される事を、求めてしまう。


エマは、トルソーに手を掛け、奇声を上げながら、それを窓に投げつけた。 どこにそんな力があったのだろうか。

凄まじい音を上げて、窓が割れる。

半狂乱になったエマは、手当たり次第、手に掴んだ物を、窓に向かって投げつける。


私は、愛されたい。


物音を聞き付けたアリスが、部屋に飛び込んだ時、エマはペーパーナイフをベッドに突き立て、一心不乱に引き裂いていた。


私は、()に、愛されたい。


アリスの悲鳴を聞き付けた、他の侍女や侍従が駆けつけた時、エマは、ペーパーナイフを自分の腹部に突き立てた。


こんなに、彼を()()()しまったのに、彼のすべてが演技なんて、耐えられそうにないわ……


―――すべて、おわらせたい。


※※※


「やはり、腹部の打撲傷のみですね……」

ベッドに横たわるエマを診察した主治医が、父であるベニドニア伯爵に伝える。


「それなら、なぜ意識がないままなのだ」

瞼を閉じたままのエマの頬を撫でながら、苛立ちを隠そうともしなかった。


テルセオが女性といたのが、そんなにも傷ついたのだろうか、自傷行為をするほどに……


「母親が居ないせいなのだろうか……」


伯爵は、自分を責める。 相談できる家族が、悩みを打ち明けられる家族が、いなかったせいなのだろうか。

自分には、悩みを相談出来なかったのだろうか……。


頭を抱え項垂(うなだ)れる伯爵を、ただただ主治医は眺めていた。





いかがでしたでしょうか?

よろしければ、☆を頂きたく思います。

今日も、良い一日になりますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ