懺悔
エマは、自宅のベッドの上に寝転がっている。 今日は何もしたくない。 昨日の夜会で疲れたせいなのだろうか?ヤル気がわかない。
父や侍女達、特にアリスが心配して、熱を測ったり、薬湯を運んでくれたりしたが、体調は悪くない。 強いて言えば、心が痛い。
昨日のイタズラが大事になってしまった。 失礼な令嬢が、大騒ぎしたのだ。
「テルセオ様、私も相手をしてください」
そう、大声で騒いだのだ。
人気の無いテラスの暗がりで、婚約者がいるにも関わらず、他の令嬢と二人きり。
そこに、「私も」と言い出す令嬢がいれば……。悪意のある噂がいくらでも作れる。
今朝早く、テルセオから届いた手紙が、サイドテーブルの上に乗っていた。
怖くて、読む気になれない。立ち上がり、手紙をダストボックスに捨てる。
私はなんて、自分勝手なのだろうか。自分の事しか考えていなかった。
トルソーに掛けられた、テルセオ色のドレスと宝石達の前に立ち、ボンヤリとドレスを眺める。
彼の艶のある瞳と同じ、エメラルドグリーンのドレス、彼の心のような、透き通ったエメラルドの宝石……。
(返さないと、私には無理だわ……)
エマは、自分の両手を見つめる。 昨夜のテルセオの吐息の暖かさを思い出す。
いつぞやの、舐められた指先の艶なまめかしい感触。
頬を何かが流れるのを感じて、手で拭うと、仄かに温かかった。
こぼれ落ちる涙は、拭っても拭っても溢れてくる。 情けない。こんなに情けない気持ちになったのは、初めてだ。
(私は、テルセオに恋してしまっている)
なんて最悪なタイミングで、自覚してしまったのだろう。もどかしい。悔しい。情けない。
彼に愛されているかも、なんて思った自分が恥ずかしい。 彼は、私のために演技していただけなのに。
私の名誉回復の為に、好きでもない私に……。
忙しい中、半月もかけて領地まで来てくれた。
ひどい噂が流れている時だって、時間を作って一緒にいてくれた。
甘いものが嫌いなのに、パンケーキを食べてくれた。
この、ドレスだって、この宝石だって……。
みんな、みんな演技なのだ。
定められた婚姻の為、家の為に必要な演技だったのだ。
それなのに、私は勘違いをした挙げ句、嫉妬心で彼の名誉を傷付けてしまった。
あぁ……、それなのに……。
どんなに、テルセオに愛されてない。愛していない。と思い込もうとしても、心が拒否する。
彼に愛される事を、求めてしまう。
エマは、トルソーに手を掛け、奇声を上げながら、それを窓に投げつけた。 どこにそんな力があったのだろうか。
凄まじい音を上げて、窓が割れる。
半狂乱になったエマは、手当たり次第、手に掴んだ物を、窓に向かって投げつける。
私は、愛されたい。
物音を聞き付けたアリスが、部屋に飛び込んだ時、エマはペーパーナイフをベッドに突き立て、一心不乱に引き裂いていた。
私は、彼に、愛されたい。
アリスの悲鳴を聞き付けた、他の侍女や侍従が駆けつけた時、エマは、ペーパーナイフを自分の腹部に突き立てた。
こんなに、彼を愛してしまったのに、彼のすべてが演技なんて、耐えられそうにないわ……
―――すべて、おわらせたい。
※※※
「やはり、腹部の打撲傷のみですね……」
ベッドに横たわるエマを診察した主治医が、父であるベニドニア伯爵に伝える。
「それなら、なぜ意識がないままなのだ」
瞼を閉じたままのエマの頬を撫でながら、苛立ちを隠そうともしなかった。
テルセオが女性といたのが、そんなにも傷ついたのだろうか、自傷行為をするほどに……
「母親が居ないせいなのだろうか……」
伯爵は、自分を責める。 相談できる家族が、悩みを打ち明けられる家族が、いなかったせいなのだろうか。
自分には、悩みを相談出来なかったのだろうか……。
頭を抱え項垂れる伯爵を、ただただ主治医は眺めていた。
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