リベンジ
タウンハウスに戻る馬車の中で、侍女のアリスに、もう、研究所に通わない事を伝えた。
「ごめんね、アリス。 騎士団に寄り付けなくなったわ」
「いいんですよ。お嬢様を悪女なんて言う人達とは、関わりたくありませんって」
アリスが代わりに怒ってくれるので、気が晴れる。
でも、もう社交は失敗だろう。
テオドロスも祖父母も、いろいろ準備や手助けをしてくれたのに、情けなくなる。
父にも、申し訳ない。 ここまで、悪評が広がったら、もう、結婚も無理だろう。
領地に戻って、修道院に入るしかないのだろうか。
その時、馬車が止まった。 まだ、タウンハウスには着いてないと思うのだが。
「どうしたの? 何かあった?」
小窓から御者に尋ねるが「あの……その……」と、要領を得ない。
「お嬢様!外!」
アリスが慌てて、窓を指差している。 そこには、馬に乗ったテルセオが見えた。
急いでいるのだろうか、結んだ髪がほどけている。
そんな彼もカッコいい、と思ってしまった。
馬車の扉が乱暴に開けられ、テルセオがアリスに「エマを借りる」と、言い放つ。
アリスが呆気に取られている間に、エマは抱き抱えられ、いつの間にかテルセオの馬の背に乗せられていた。
テルセオの細腕のどこに、そんな力があったのであろうか。 さすがは、騎士団員というべきか。
エマは、背中にテルセオの鼓動を感じれる程、彼の腕の中にスッポリ入っていた。
(なんて力なのだろうか。何処に連れていかれるのだろうか、何を言われるのだろうか)
エマは萎縮して、何の言葉も出てこない。額にジットリと汗がにじむ。
恐る恐るテルセオを見上げれば、彼は正面を見据えたまま、馬をゆっくりと走らせている。
それも、城下に戻っているようだ。
―――おかしい、まるで城下を練り歩いてるように、まんべんなく通りを馬で闊歩している。
人々の視線が、貴族達の視線が痛い。まるで、見世物のようだ。何を考えているのだろう。
そして、いつぞやのカフェにたどり着いた。
テルセオに抱えられ、馬から降りると、令嬢達の視線が集まり、コソコソ言われているのがわかる。
足が震えるほどの恐怖を感じているのに、彼は素知らぬ顔で、店内にエスコートする。
―――そして、テラス席に座らされた。
もう、恐怖しかない。四方八方から見られ、噂され、指を指される。 わざと聞こえるように悪口を言ってくる。
しばらくすると、目の前にあの時と同じように、茉莉花茶と生クリームとシナモンのパンケーキが置かれた。
なんの嫌がらせだろうか。怒りで顔が火照ってきた。
キッとテルセオを睨むが、彼は、素知らぬ顔でパンケーキを切り分けている。 カトラリーを操るその指先がしなやかで、思わず見いってしまった。
すると、目の前に生クリームの付いた、パンケーキの一片が差し出された。
「?」
テルセオとパンケーキと交互に見ていると、ズイッと再びパンケーキが差し出される。
(食べろって事かしら? あの時の仕返しなのね)
そう理解して、口元のパンケーキを頬張る。
すると、テルセオは満足そうに微笑み、次の一片を差し出してくる。
繰り返しているうちに、口元にクリームが付いている感覚を覚えた。
しかし、それを拭う暇もなく、次のパンケーキがやってくる。もどかしい気持ちでいると、テルセオの綺麗な指が伸びてきて、口元を拭った。
(これまでも、真似るわけ?)
テルセオを睨むエマの瞳が、かすかに揺れる。
すると、彼はその指をペロリと舐めた。
「!」
あまりの驚きに、エマの涙も引っ込んだ。
(舐めた?舐めたよ!なんで?嫌いじゃないの?)
唖然としているエマに、テルセオは皿を差し出し、カパッと口を開けた。
「えっ? どうゆう事?」
「僕にも、食べさせて」
エメラルドの瞳がキラリと光った。ように、感じた。
恐る恐るパンケーキの一片にクリームを付けて、慎重にテルセオの口元へと運ぶ。
彼は、頬杖をつきなが、差し出されたパンケーキを食べる。 食べ終わるとまた、口を開ける。
クリームが口元に付かないよう、慎重に運んでいたものの、やはり、多少のクリームが、彼の口元に付いてしまった。
容姿端麗な美形の口元に、いつまでもクリームが付いているのは、いただけない。
エマが、ハンカチを取り出し、クリームを拭おうとすると、それを止められた。
ハンカチを取り上げられ、人差し指を出させられ、彼の誘導で、エマの指先にクリームが付く。
そして、その指を……指先をペロリと舐めたのだ。
指先に感じた、彼の暖かさと艶かしい感触に、エマは顔が火照っていくのを感じた。
そんなエマの様子を見て、テルセオは満足そうに微笑んだ。
いかがでしたでしょうか?
よろしければ、☆を頂きたく思います。
今日も、一日お疲れ様でした。




