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§5-11. 学祭最終日、隣のクラスへ直行した結果


 何事もなく学校祭も3日目、最終日を迎えることができた。


 昨日のステージ発表は全クラス(つつが)()く終了した。ウチのクラスもまずまずの成果を上げられたようで何よりだった。


 俺は例のステージ上層部にあるコントロール室から眺めながらの裏方仕事だったが、好感触そうな雰囲気はそこまでも何となく感じ取れた気がする。実際ランチタイムに教室に戻った際にはかなりハイテンションなヤツらに出迎えられたのできっと満足の行く結果だったのだろう。


 ――これで一般客からの評価点も獲得できればいいのだが。


 もちろん俺と()()()の心配も杞憂に終わってくれた。暗闇に乗じてなんてことを考えたがそんなことはなく、帰路も前夜祭と同じプランを採ったがこれも無事成功だった。今日は白昼であり、かつ人の目の絶対数も多い。そんなに堂々と何か事を起こすようなことは無いだろうと登校中にふたりで話していたのだが、そうなってくれることを祈るばかりだった。


 さて、3日目はその一般公開日。昨日のステージ発表に対する一般客からの審査はもちろん、各クラスが考えた模擬店の営業とその審査会がメインディッシュ。わりと広いはずの赤向坂高校の敷地が狭く感じるくらいに、早くも人が集まってきている。


 ――いや、マジで多くないか。高校の学祭ってこんなに人が来るモンなのか?


 公立高校の学校祭は概ねこの週末で開催されるが、私立高はその限りではない。どうやらその私立高校や秋に開催する公立高校の連中も多そうだ――っていうか、中学時代の同級生の顔が見えた気がする。懐かしいな。


「じゃあみんな、がんばっていこー」


「いぇーい!」


 わりと軽めの号令をかけて、我がクラスの準備は万端。


 俺に割り振られている模擬店の店番は午前の後半。実行委員としての仕事は午後に割り振られている。つまり、いきなりのフリータイムがやってきたということになる。


(とう)()、橙也!」


「ぼけっとすんな!」


「ぅぐぇ」


 いきなり真正面からの強襲に遭う。犯人は(よう)(すけ)(こう)()、いつものヤツらだ。


「ほら、行くぞ。すぐ行くぞ」


「わかった、わかった。……おい、陽輔。財布は?」


「忘れてるわけねえだろ」


 お前は大抵カバンに財布をしまったままでメシ買いに行くだろ――と言いたくなったが、その心配が杞憂に終わるくらいに準備万端で居たことにすこし笑える。それだけ()()()の力は大きいということらしい。


 そのままふたりに引っ張られるように教室を出る。


 向かう先は、すぐ隣の教室の前。その待機列。


 早くも人集りができかけているタイミングで、俺たちはあっさりと先頭に並ぶことに成功した。


 急いては事をし損じる? いやいや、先手必勝というコトバもある。


 ――俺はあんまり乗り気じゃないけれど。


「いやー、ラッキーだな俺たち」


「天使のクラスの隣で良かったなぁ、って初めて思えたわ」


「同じクラスがベストかと思いきや、まさかの盲点だったな」


 当番の時間帯を3人で合わせた段階でどういう風に見て行くかということも話し合おうとしたのだが、俺と立待月の見回り当番の時間を言った瞬間に3人中2人の意見がぴたりと合致してしまったため俺の意見は出口を失った。


 ――『なぁ、だったらまっさきに隣行こうぜ』


 ――『何でって。そりゃあお前、立待月さんのウワサはだいぶ広まってるんだぞ。ぼやぼやしてたら入れなくなる可能性があるんだから、速攻で落とすんだよ』


 そんな感じだった。


 落とすって何をだと思えば、金ということらしい。限界オタクみたいなことを言いよってからに――とは思ったがギリギリのところで我慢した。


 隣のクラスは喫茶室。俺とセットで生徒会と実行委員の仕事をすることになっているので、立待月も午後には喫茶室から居なくなっていることは確定。つまり、午前中ならば会えることも確定。だったら速攻で行けば絶対に楽しい――ということらしい。


 俺はそうは思ってないけれど。


「ふぅ……」


「おいおい橙也。どうしていきなり賢者タイムなんだよ」


「疲れるからだよ」


 ――いろんな意味でな。




     〇




「どーぞ」


「いぇーい!」「フゥー!」


 キンキンのファルセットを廊下に響かせてふたりが入室。俺もそれに従うように、無言で会釈を添えつつ、入る。本当にこのふたりが阿呆で申し訳ない。


「……おお」


 良く出来てるなぁ、というのがファーストインプレッション。


 装飾自体は控えめなのであくまでも学校の教室感はあるが、黒板アートが立派。美術部員がふたり居るということは立待月から聞いてはいたが、なるほどこういう活用をしてきたかと素直に感心する。


 そして何よりもテーマが『アニマル喫茶』。衣装と小道具に全振りしたとしか言えないくらいのスタッフ陣がスゴい。模擬店営業において華美すぎるコスプレ衣装の使用は禁止というお達しは出ているが、その範疇にあってもコスプレ風味はきっちりと出ている。


「猫耳、いいな……」


「いやいや、あっちのキツネしっぽも……」


 さっそく品定めのようなことをしているふたりである。こういうヤツを引き込むために動物の小道具を使うという作戦は成功らしい。今はまだどこの模擬店も開店直後なのでとくに入場制限などが設定されているわけではないが、ここは遅かれ早かれ入店時間に上限が付けられるとか、何らかの制限がかけられそうだ。その辺りも実行委員の仕事になっていると聞いているので、今の内に考えておこう。


 最奥の席に通されてもなお「あれがカワイイ・これがたまらん」などと言い続けているが、とりあえずお品書きを確認。今はまだ始まったばかりなので飲み物だけで充分だとは思うが――ってコイツら、少しは落ち着け。


「いらっしゃ……いませー」


 ほら、さっそくヒかれてるじゃないか。思わず吃るってそういうことじゃないのか。


 そう思いつつメニューから顔を上げれば――。


「お、おう」


「早速来たのね……」


 頬を引きつらせかけながらも、どうにか営業スマイルを浮かべている立待月瑠璃花がそこに立っていた。


 あれ。これってもしかして、一瞬噛んだ理由って俺が居たからか?


「俺っていうか、コレがな」


「解るわよ、それくらい」


「理解が早くていつも助かる」


 弁解は欠かさないし、それをすぐ察してくれるのがありがたい限り。


「おい」


「ああ」


「答えはここに」


「あったな」


「……お前ら、変なコンビ芸やらないでくれる?」


 うんうん頷きながら立待月を見つめる陽輔と光太。マジで恥ずかしいから止めてほしい。


 ――と思っていたのだが。


「私にはむしろ、(あさ)(くら)くんも加えてのトリオコントにしか見えないけど」


「え」


「ご注文は?」


「ちょ、ちょっと待て! それはさすがに心外」


「ご・ちゅ・う・も・ん・は?」


「……アイスコーヒーで」


 完全敗北。有無を言わせない1音区切りはズルいと思いました。




     〇




 実際すぐにアニマル喫茶室は混み始め、最初の応対以外に立待月はこちらのテーブルには来ず、そのまま俺たちは頼んだソフトドリンクを飲み干して教室を後にした。


「立待月さんが正義。……いや、立待月さん()()が正義だったな」


「間違いない。そしてやっぱりいきなり(トツ)って正解だったな」


「……そうなのか」


 案の定というか、俺は単純に疲れただけだったんだが。


 アイスコーヒーで喉を潤したはずが、もうすでに何となく渇きを訴えているんだが。


「橙也。お前はもう少し『有り難み』というモノを理解すべきだ。解るか?」


「はぁ」


「止めとけ陽輔。コイツはもう、立待月さんが隣に居ることに慣れちまってるんだ」


「……そうだな。そうだよなぁ。仕方ねえな。俺たちは汚れっちまった悲しみに暮れるしかねえんだ」


 (なか)(はら)(ちゅう)()の著作タイトルをそんな()(せん)なモノに使うな。


「……ん?」


 ポケットの中身が震えた気がする。


 正体はダイレクトメッセージ。


 誰かと思えば、立待月()()()


「げ」


「どした?」


「ああ、いや。何でもない」


 ――って事は全く無いんだけど。


 後が怖いので即刻開封。


 ――『あなたの店番ってお昼前よね』


 ――『覚えておきなさい』


 結局怖いことには代わり無かった。



 

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