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プロローグ
その天女は春の嵐の中から現れたらしい。
天女はある青年に神からのお告げをもたらし、青年はこの国の王になった。
建国の日、楼華国では建国神話になぞらえて天女に扮した女性が王の前で舞を踊り、神殿からのお告げを手渡す。
この天女役が、一年の中で舞姫の最も大きな仕事だと言えるだろう。
天女の衣装に身を包んだ舞姫は小さく息を吐いた。
緊張はしていない。建国の式典の舞台に立つのは初めてのはずなのに、なぜか懐かしい感覚さえする。
横に控えている楽舞局の文官の目配せで板の上に足を進める。
空は青く晴れ渡って、舞台横の桜は満開に咲き乱れている。
柔らかい風が舞姫の頬を撫でた。
―おかえり。ずっと君を待っていたよ。
その声が聞こえたか否かはわからない。ただ、彼女はそっと微笑んだ。