完璧な親友は
「ふわぁ……眠い……」
欠伸をかきながら、ぼんやりと昼休みの教室を見渡す。机を合わせながら昼食を食べる者、購買に昼食を買いに行く者。各々、好きに昼休みを楽しんでいる。
「数学のノートを提出しに行くのだろう? 僕も職員室に用事があるから、半分持つよ」
「え!? 良いの? 有難う、阿辺くん!」
日直が持っている、クラス全員分のノートをさり気なく受け取る男。俺の親友である、阿辺清貴だ。
「阿辺くんって、本当に優しいよね」
「そうそう! 他の男子たちと違って、掃除当番だってさぼらないし!」
「商店街で御婆さんの荷物を持ってあげているのを見たよ!」
「私は迷子を交番に連れて行っていたところ」
クラスの女子生徒は、清貴の日頃の行いついて熱く語る。その光景は何時ものことだ。清貴は頭脳明晰、運動神経抜群である。おまけに背も高く、整った容姿を持ち性格まで良い。そうなると、女子は彼を王子様扱いし始める。陰では『清貴王子』など呼ばれているようだ。
女子たちにもてはやされると、男子たちからの目線が厳しくなるのが普通である。しかし清貴は性格が良い為、男子たちからの信頼も厚い。
まあ、俺のような偏屈な人間を『親友』と称してくれる優しい奴なのだ。好かれて当たり前である。
「あれ? 友樹。まだ、ご飯食べてないのかい?」
「……あ、忘れていた……」
背後から声をかけられ、振り向くと清貴が不思議そうな顔で立っていた。彼の指摘で、昼休みは用事があるから先に食べているようにと言われていたことを思い出した。
「ふははっ、……僕のことを待っていてくれていたのだろう? 有難う。友樹は優しいな」
「いや……まあ……」
何故か楽しそう笑うと清貴に、俺は曖昧に応える。日頃から一緒に昼食を摂っているから、なんとなく食べる気にならなかった。習慣とは恐ろしいものだ。
普段から一人で昼食を摂らなく良いように気を遣ってくれている。優しいのは、お前だろうと言いたい。
「待たせてしまったお詫びに、唐揚げを一つ進呈しよう」
清貴は俺の隣である自身の席に座ると、弁当箱を広げた。
「清貴、影忘れている」
「あ、ごめん。有難う、忘れていたよ」
俺が小声で伝えると、親友の足元に影が生えた。
完璧だとか王子様だとか言われているが、実は抜けているところもある。
俺の親友は時々、影を忘れる。