改めて
玉座の間から退出した私は、アンドリューに手を引かれるようにして、城内を進んでいた。
そして、ある扉の前でアンドリューが立ち止まる。その扉の前には衛兵もいない。アンドリューはその扉の前に立つと、手をかざした。
すると、扉が音もなく開く。
「!?」
私が驚いていると、得意気にアンドリューは笑った。
「俺は、〈魔法〉が使えるんだ」
〈魔法〉。私や巫女のような力とは、違う隣国にかつて存在していた力のことだ。けれど、その力を使えるものは絶滅してしまったはずだった。
驚くまま、アンドリューに手を引かれて室内にはいる。
室内は品のいい調度品で整えられていた。おそらく、ここがアンドリューの自室なのだろう。
「それで、兄上の前で言ったことについてなんだが、」
アンドリューに、ソファに座るように促されて、座ると、アンドリューは話し出した。
「!」
そうだった。魔法のことですっかり忘れていたけれど、アンドリューは隣国イーデンの王弟であり、しかも私と結婚すると王の前で宣言したのだ。
「俺の身分も明かさぬまま、連れてきてすまない」
「い、いえ! 顔を上げてください! 私の命は貴方のものなのですから」
そうだ。私に意味を見いだしてくれるなら、アンドリューに命を捧げると決めたのだ。アンドリューに謝られる理由はない。
「そう、だったな」
アンドリューはなぜか、少しだけ寂しそうな顔をしたあと、表情を切り替えた。
「けれど、改めて問おう。──貴方の人生の残りすべてを、俺にくれないか?」
金の瞳はどこまでも真っ直ぐに、私を見つめていた。
アンドリューの言っていることは、冗談ではない。本気で、私を妻に迎えたいと思っている。理由は、なぜかわからないけれど。
もう一度、私の意思を確認してくれたことを嬉しく思う。王弟の妻だなんて、なんの身分もない私に勤まるかは甚だ疑問だけれども。アンドリューがそう望んでくれるのなら、私の答えは決まっていた。
「──はい」
私が頷くと、アンドリューは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。貴女の生活のすべてを俺は保障する。俺は、貴女が──」
アンドリューが何かをいいかけたとき、扉があわただしくノックされた。
アンドリューが眉をひそめて、パチンと指をならすと、扉が開いた。入ってきたのは、かっちりと制服を着こなした男性だった。
「アンドリュー様、陛下から伺いましたよ! なんの後ろ楯もない少女と結婚するという世迷いごとをおっしゃったと!」
「ジェフ、世迷い事じゃない、事実だ」
ため息をつきながら、アンドリューは頷いた。
「お忘れですか! 来週には、サマリー嬢との見合いの席が──いえ、来週だけではありません。一目でいいから、貴方に会いたいと見合いの申し込みがたえないというのに!」
アンドリューはジェフを鬱陶しそうに見たあと、私の手をとり、立ち上がらせた。
「全部、断ってくれ。俺は、彼女、せ、せり、セリーヌ以外と結婚するつもりはない」