俺とおっさんといちご鼻
享年17歳。
俺こと、坂本太一は17歳でこの世を去り。
2度目の人生として、剣と魔法の異世界に転移するチャンスを貰ったんだ。
この異世界は、大体が俺のイメージ通りだった。ただ一点を除いては……。
それは、俺が……いや、俺たち転移者はとんでも無く、小さくなっていたと言うことだ!!
そして今日は、異世界に来て初めての仕事の日だ。
たしか、俺の教育係の人が迎えに来てくれるはずだが。
「おはよう。太一くん」
俺に掛けられた、声の主こと『おっさん』が。この世界の事を、いろいろ教えてくれる教育係だ。
「おはようございます。おっさん」
「今日もよろしくお願いします」
「ハハハ。ほんとに太一くんは、礼儀正しいね。じゃあ早速、仕事場に案内するよ」
おっさんは手招きをし、俺もすかさず小走りで後を追う。
仕事場に向かう途中でも、おっさんはよく喋る。ホントに休む事なく喋り続けている。
コミニュケーションが不得意な俺は、相槌を打つだけで、酸欠になりクラクラして来た。
「太一くん……太一くん!」
「はい!」
俺はハッキリと返事をする。どうやら、あまりに内容の無い話に相槌を打っていたら意識が飛んでいたようだ。
呆ける俺の様子に、おっさんも少々心配そうな面持ちを浮かべている。
「着いたよ。今日の仕事場だ」
「おぉぉ!!」
俺は目の前の光景に驚愕する。
巨大な人がベットに寝ている。俺の100倍はゆうにあるだろう。
しばし、その異質な光景を見つめる俺に、おっさんは今日の仕事とやらを教えてくれた。
「私たちの仕事はね、美容に関する仕事なんだよ」
「ほう……。美容ですか」
「そう美容だよ。今日するのは数ある作業の中でも、一番ハードな仕事なんだ」
おっさんはやけに神妙な顔をしている……。
そのおっさんの、只ならぬ空気感に思わず俺も不安になって来た。
たしかに俺達、ミニマム人間は利用価値があるだろう。なんせ小さい、細かい作業も得意だろう。
それにココは、異世界……。
きっと俺の予想もつかない、地獄の様な仕事が待っているはず……。
「あれを見たまえ、太一くん」
おっさんが指さす方には鼻がある。
「鼻ですか」
「半分正解だ。もっと目を凝らしてご覧」
目を凝らす?
ん?ん!?
「おっさん!!なんですかアレは!?」
俺は初めて見る物体に理解が追いつかない。
そんな、俺の反応を楽しむ様。おっさんが、ゆっくり口を開く。
「アレはね、角栓がたっぷり詰まった鼻。『いちご鼻』だよ。」
「いちご鼻……」
初めて聞く単語だ。
「そう、いちご鼻。それを綺麗にするのが私達の今日の仕事だよ」
ニヤリと笑うおっさんを見て。俺は思う。
とんでもない所に来てしまったと。
ーー
おっさんと俺は、鼻の近くまで移動しに来ていた。
しかし、近くで見ると圧倒される。
数百とある、鼻の毛穴ひとつひとつに幼虫の様な、角栓が存在しているのだ。
これを全て除去する。確かになかなかの重労働だ。
特におっさんの様な、中高年にはキツい仕事だろう。
「この作業、今まで一人でやってたんですか」
純粋な質問を投げかけてみる。
「あぁ一人だよ。とにかく腰に来る作業でね。若い子が入ってきてホント助かるよ」
数人係でも重労働だろうに、一人でとなると……。
おっさんは頑張って来たんだな本当に。
「僕にも詳しくやり方を教えて下さい!!」
俺は頭を下げた。
ただ純粋に彼の力になれたらと思ったんだ。
「ありがとう太一くん。なら見本を見せてあげよう!!」
おっさんは誇らしげに胸を叩いた。
ーー
「まずはね太一くん。オイルを塗るんだ」
「そうする事で角栓を緩ませるんだ」
おっさんは、慣れた手つきでオイルを塗って見せる。鮮やかな手捌きだ。
「そしたら、角栓を掴みーー」
言い終わると同時に、おっさんは角栓を力一杯引っ張った。身体中、青筋を立てて引っ張っている。
まさに鬼の形相だ。
「頑張れ。おっさん」
一生懸命な姿を目にし、俺はいつの間にか応援していた。
「頑張れ。おっさん!!」
「ウォぉぉ!!」
「頑張れ!!おっさん!!!!」
「ウォぉぉぉぉ!!!!」
俺とおっさんの、永遠に続くかと思われたやり取りにも突如終わりがやって来た。
『キュポン!!』
その音と共に一本の角栓が空を舞う。その一本は余りにも美しく、まるで剣の様だ。
「おっさん!!すげぇよ!!感動したよ俺」
俺は興奮が抑えれなくて、おっさんに走り寄る。
その時だ。
「あっ」
俺は巨大人間の皮脂で足を滑らせ、体制を崩してしまい。
巨大人間の顔から床にまで、滑り落ちたと思った時ーー
俺の体は宙ぶらりんになっていた。訳もわからず周りを見渡すと。
「おっさん!!」
なんと、俺の手をおっさんが間一髪掴んでいたのだ。
だが流石におっさんは角栓との格闘の後だ。体力の消耗により俺を引き上げるだけの力は残っていないのか、俺は今にも落ちそうになっている、
「このままじゃ、二人とも落ちる!離してくれ!!」
俺は声の限り叫んだ。
「……」
おっさんからの返事はない。
俺が皮脂で足を滑らせたから、こんな事になってしまった。俺のせいで……。
「おっさんーー」
俺の声を掻き消すように、おっさんが叫ぶ。
「少し黙ってろぃ!!若いもんを見殺しにしちゃあ……死んでも死に切れねぇがな!!」
「おっさん!!」
豹変したおっさんの態度に、俺は感動を抑えきれない。
「おっさぁぁん!?!!」
「泣くのは助かってからにしな坊主。そしたら一緒に酒でも飲もうやーー」
おっさんは言い終えると同時に、俺を力一杯引き上げた。まさに角栓を引き抜いた様に。
ーー
あの後、俺は命に別状は無く。
奇跡の生還を果たすことが出来た。
全部おっさんのおかげだ。
あれからもおっさんは、俺の教育係として一緒に仕事をしている。今日もこれからーー
「おはようございます。太一くん」
「おはようございます。おっさん!」
おっさんと仕事に出勤だ。
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