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2。exardēscō

ー昔々、ある南の王国に、一人の女王がいた。白い肌は露より綺麗そうで、真っ赤な唇は果実よりも甘そうだった。その可愛い見方に騙された数々の王が彼女の刃を飾る血のしずくとなった。彼女は水を使い、氷を生ませ、七つの国を統一した。


女王は自分を『アロイオーシス』と名乗り、爪先で天下を治めた。彼女が王座に就き、世界に君臨してから100年。誰もが彼女の死を祈った。200年が経った頃、人々は反逆の牙を向いた。300年の時、反逆者は全て排除された。多分、400年になってから、人は『諦め』になれた。


女王は人に興味がなかった。それゆえに、友も恋人もつくらなかった。だが、誰もその問題を口にしなかった。暴君の世継が生まれるのは、むしろ国の心配だった。彼女は実力のある女王だったが、いい人ではなかった。


逆に、反逆を諦めた者は君側を狙った。王座の下で尾を振る姿は実に見物だった。方法は違っていたが、目的は同じ。彼女のすきを狙い、一刻も早く殺す。


計画は完璧だった。彼らの唯一な過ちは、そう、彼女に抜け目などなかったこと。


彼女は簡単に心を開かなかった。すると、人々はいわゆる『魔女』に頼ることとなった。その頃、エリック公爵が手にいれた『愛の妙薬』の噂が立った。


そして今、彼女は最初で最後の欲望を抑えきれなかった。もはや、理性的な判断ができないから。


「あの、その…。」


女王の美しさに気を捕らわれていた少女は、ようやく今の状況に気づいた。姫様のようにだっこされてる自分の姿は、身に余る親切であった。


「お、下ろしてください。重いからっ…!」

「重い…?冗談だろう。」


切望を聞き捨てる女王の余裕に、慌てるのは少女だけ。


「もう、陛下っ!」

「ヘイカ?」


立ち止まった女王は微妙な笑顔を見せた。少女の喘ぎ声が、『陛下』と呼ぶ言葉が、心を果てしなく刺激した。


「も、申し訳、やはり、わたくし、なんかー。」

「そう、よくも言ってくれたわね。」


ジェラートみたいなねばっこい視線がしつこく付きまとった。冷たい笑顔とは似合わない、幸せに満ちている瞳。


「確かに、今の儂はご機嫌斜め。」

「申し…。」

「しーっ。」


これ以上近づくと、唇が触れそうな距離。その重さを知ってるくせに目を逸らさない理由は、もう心を奪われてしまったから。


「きみが話すたび、ますます渇きを覚えてしまう。」

「ひぃっ!」


耳を掠める唇から濃い息遣いをふきかけると、びくっと体をひねる。まつげにやどる涙が愛しすぎて、舐めてしまう。


「ふひゃっ!」


囁きでは終らせない渇き。足りないのはただの水ではない。


「儂はきみを泣かせたい。その涙の粒さえ独り占めしたい。儂だけがー。」


真っ赤な瞳の中、執着だけがひらめいた。


「ねえ、これってどんな感情?きみは儂に何をしたの?」


やっと気づいたのは、メイドたちから聞いた、『愛の妙薬』の存在。そう言えば女王がワインを飲んだ後、視線が合った。妙薬の存在と、ワインを飲んでからおかしくなった女王。全ての謎が解けた。


「それは、愛の…。」


妙薬の存在を明す前、世界が回る。変った景色の中、ドーム型の天井が見える。いつのまにすきを襲った女王に、少女は組み敷かれてしまった。


「そうか、これは『愛』と言う感情だな。」


女王は納得したように頷いた。


「やはり、この感情はたしかな『愛』だな。そう、当たり前。こんなにも欲しいから。」

「んっ…。」


なんだかおかしい。視線はぼやけ、頭はどんどんぼーっとなる。思考能力を奪われてるように、なにも考えられない。早起きした日の午後のように、ただ本能に身を任せて、全て忘れたい。


「ねえ。」


指先で頬を撫でる感覚と反射的に震える全身。甘い声で少女の感覚を操っていた女王は、その寝ぼけ眼を見て満足らしく笑った。


「抱いていい?」


混乱する感覚の中、理性が消えて行く。感情の支配の下、今起きる全ては『不可抗力』となる。だ女王はいつも正しいから、きっと今の話も最も合理的なものであるはず。


「はい…。」


唇は勝手に動き、歪んだ心を響かせた。


「抱いて、ください…。」


何を言ってるのかわからない。ただ、楽しくて幸せなことなら、全て良いもの。だから、なにも心配せず、身を任せばよい。


「ふふ…。」


朦朧とした意識の中、ボタンを外す指が素肌に振れる。よくわからないけど、これでいい。だって、あの人も自分も幸せになれるから。


「陛下!」

「はっー。」


ドアを叩くノックの音が、意識を戻してくれた。もう半分裸になってる自分の姿を見て、少女は真っ赤くなった。後ずさりして部屋の片隅に逃げる少女をみて、女王は鳥籠の中の青鳥が飛び立つようなむなしい感覚を感じる。でもすぐ後、歪んだ笑顔で相手を向き合った。


「失礼します、陛下。入ってもいいですか?」

「よかろう。」


だが、相手が部屋に入った瞬間、鋭い氷柱で彼の首を狙った。


「へ、陛下?」

「黙って欲しい。」

「た、確かによかろうとー。」

「構わない。だって、殺すから。」


喪失感は怒りとなり、彼女を狂わせた。


「後少しだったのにー。」

「だっ、だめです、陛下!」


走ってきた少女は女王を後ろから抱いた。感情の支配に騙された自分の立場も忘れて、素肌を現したまま。暖かくて柔らかい温もりが伝わると、氷は溶けてしまい水となる。

「ああ、うあああー!」


ぶるぶる震えていた公爵は、女王が手を下ろした瞬間逃げ出した。でも、今の女王に邪魔物など気にする余裕はなかった。


「きれいだね。」

「うっ…。」


少女は小さくてふわふわする。どうしても手に入れたいが、むりやりに犯したくはない。


「今日は止めておく。」

「え…?」


言葉とは違って、女王の手はずっと少女を弄った。仕方ない。これは本能だから。


「嫌われたくはないから。」


迷っていた少女は服を取りそろえる。女王は少女から目を離さない。もっと見ていたい。着服まえ、一秒でもいいから。

+ボーナス+


「はい!如月アンナ、今夜は休みます!」


少女に全てを託したアンナは、今夜を燃え尽きるつもりだった。


「あのお馬鹿さんのおかげで、舞踏会のお世話もしないし、後片付けもしないし!」

「いいな。」

「マジ羨ましい。」

「よっし、寝ちゃおう、寝ちゃおう、寝ちゃおう!」


酒によってふにゃふにゃしていたアンナはすぐ横になった。だが、幸せは長く続かなかった。


「アンナ。」


メイド長の呼ぶ声を聞き、アンナは首を傾げた。


「あらぁ、どうしたんですかぁー?」

「起きなさい。仕事よ。」

「いやだな、今日は私の代わり、あの子がぁー。」

「あんたの代わりを女王さまが連れていって、人が足りない。」

「ええええ!?」

「ほら、急ぎなさい!」


キチンに向かうアンナの顔が挫折感に染まっていた。

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