人命第一だと思いまして。
『『『『キュイッ!』』』』
今度は紫色のキラキラに包まれた、馬くらいの大きさの羊たちが出てきた。そしてそれぞれ咥えたり器用にツノで引っ掛け放り投げたりして騎士さんを1人ずつ背負っていく。ライダーシープか、なんかかっこいいぞ。
「なんだ!?」
「おおお?」
「またアリエスかよ!」
「ひぇ!?」
あ、なんにも説明してなかったよ。すみませんけど時間ないって言ったのはそちらなので、ちょっと我慢してくださいね。私は黒曜に乗せてもらっているからこのまま速攻で行くよ。
「みんな、最速でお願いね!」
『『『『キュイイイイッ』』』』
「ゔおああああああっ!!」
とても気合いの入った鳴き声とともに、ぐんっと加速する一団。バイク並に景色がビュンビュン後ろに流れていく。合間に、騎士さんたちの悲鳴が聞こえた気がしたけど、人命第一ってことで聞かなかったフリをした。
やがて加速が緩やかになり、前方に人影とそれに群がる人間サイズの鳥のような魔獣が見えた。血の匂いで集まってくるなんてハゲタカか!でも裏を返せばまだ生きてるってことだよね?それならこのまま突っ込んでしまえ!
「蹴散らせ!!」
『キュキュイ!』
大剣の人を乗せた羊さんが頭を下げてツノを突き出し突進すると、鳥たちは慌てて逃げていった。これだけで逃げるとは思わなかったけど、あんまり強い魔獣じゃなかったのかもしれない。
というか、よく知らない魔獣に突っ込むだなんて私はスピード狂だったのか…ハイになってたよ絶対。運転すると性格変わっちゃう人いるよねぇ。
「ゔえぇ…」
と、少し旅立っていた意識を野太い声に引き戻される。声のした方を見ると、先程突撃した羊さんに乗っていた騎士さんが地面に四つん這いになって気持ち悪そうにしてる。結構速度出てたし酔ったのかな。
他の騎士さんは、ちょっと顔色が悪い人もいるけど概ね元気だ。パッと見この騎士さんが1番歳上そうだし、スピードが胃にきちゃったんだろう…申し訳ない。
「「「隊長!!」」」
鳥の魔獣に囲まれてた人たちが騎士さんを見て安堵の声をあげる。隊長だったのか、この人。やらかした…部下の前で醜態を晒させてしまったよ。あとで何かお詫びをしよう。
「クロム!!」
「おい、無事なのか!?」
あとの3人は隊長さんには目もくれずに怪我をした騎士さんの元へ駆け寄る。陣形を組んでいた騎士さんたちが俯きつつ場所を開けると、血塗れで横たわっている人とその横で何か魔法を使っている2人。ポーションだろうか、何か緑色の液体を掛けている。つい流れで怪我のあたりを見てしまい、そのあまりの光景に息が詰まる。
「……ぐ、うぅ…」
「状況は!」
「手持ちのポーション全てを使用して腕の溶解は止まりました。ですが完治には至らず…っ肩の傷も深く、どちらも出血が止まりませんっ!」
「自分の魔法では骨を繋ぎ合わせるのが精一杯で、完治は不可能です。もはや血管の修復のためのMPも残っておらず…」
茶髪の騎士さんが治療している人と話をしているが半分も頭に入らない。その血塗れの騎士の左腕から肩にかけて、蝋燭が解けたように崩れ夥しい量の血が周囲を染めていた。
雰囲気から察するに、このままではこの人は助からないのだろう。周りの騎士の表情も暗い。
(思考を放棄するな、考えろ。)
回復魔法もポーションもこの世界にはある。ただMPがなくて魔法が使えず、ポーションも使い切った状況。一見絶望的だけど、どちらかが使えれば助けられる可能性があるということだ。
頼りっぱなしだが羊召喚でなんとかならないか?神さまが直接浄化と魔除けを名としてくれたのだし、元より回復魔法のイメージは十分にある。もし失敗したとしても、今より悪くなることはないんだから、と…覚悟を決めて、目を閉じ祈る。
「羊召喚。」
(ポーション作成か、回復魔法を使える羊。怪我を治すことのできる力が欲しい、どうか応えて。)