ちょっと仲良くなってきた
(一瞬道みたいなものが見えた気がしたけれど、そんなこと言ってる場合じゃない。目が回って集中できないっ!)
ついに魔法が維持できなくなって、パァン!とシャボン玉が弾けた。
と、ちょうどのタイミングでふわふわの羊毛で受け止めてくれる黒曜。さすができる羊は違うね!!
なんて冗談言ってる場合じゃないか。下には木があるとはいえこんな高いところから落ちたら、受け身も知らない自分ではどんな怪我をしたかわからない。
「主人。」
ちょっと怒ったような黒曜の固い声。全面的に自分が悪いとわかっているので、ここは素直に謝るしかない。
「ごめんなさい。」
「…わかっておるなら良い。守護するのが我の役目とはいえ少しは気をつけてくれ。身が持たん。」
「…はい。」
そのまま地面に向かってスーッと降りていく。
「空を飛びたいという主人の気持ちはよくわかった。だがしばらくその魔法は禁止だ。地面の近くで練習し、上達するまでな。その代わり我に乗るがいい。」
「…いいの?重くない?」
「重くなどない。例え元の姿の主人だろうと問題ない。我はそんなに貧弱ではないぞ?」
ニヤリと笑う黒曜。怒った後だから気を使ってくれたのかな。感謝の気持ちも込めて、私も笑顔を返す。
「ありがとう」
(黒曜が守護者になってくれてよかった。)
反省もしたところで、現在地の確認だ。まさか吹き飛ばされるとは思っていなかったが、ちらりと見えた道のようなもの。道があるのなら、下山すれば近くに人がいるということだ。
だいぶ流されて今は山の中腹辺り。道が見えた方向なんて覚えてないので、とりあえず麓に向かって歩いていく。
(このブーツ歩きやすいな?登山用かミリタリー系かな?)
やがて川に出た。鑑定してみると、ここの水はとてもキレイでこのまま飲めるらしい。魔法で水も出せるけれど、せっかくのキレイな水が目の前にあるのだ、黒曜と一緒に喉を潤す。
人が生活するには水が必須だ。この川の側なら人がいる可能性も高いし、川に沿って下山することにしよう。などと、考えていると後ろ方の茂みがガサガサと揺れた。ガサガサ、ガサガサと音が段々近づいてくる。風じゃない、何かいるんだ。
一際大きく揺れたと思った瞬間、出てきたのは軽く3メートルはある紺色の獣。猪とサイを掛け合わせたかのような見た目で、大きなツノと牙まで付いている。
「黒曜!どうしよう!」
攻撃手段がないことが問題だ!猪サイはすでにこちらを獲物と捉えているようで、今にも攻撃を仕掛けようとしている。どうやら草食ではないらしい。あのツノで刺されでもしたら大惨事だ。
今の自分の魔法では焚火くらいの小さな炎や水しか出せないから倒せるとは思えない。運動神経も普通よりやや劣るため、走って逃げてもすぐおいつかれてしまうだろう。最悪なことに後ろは川で逃げ場もない。