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レイラ達を乗せた馬車が、ユーリとの待ち合わせの場所に着く。少し離れた場所では、一ヶ所の所に何故か沢山の人が集まって何かを取り囲む様にして立っている。
ヴィオラの手を借り、馬車をおりたレイラはその光景を見て、不思議そうな表情をしながら首を傾げる。
だが、横にいたヴィオラはどこか納得した様な表情をしていた。
「……何かあったのかしら?」
「あぁ、絶対あちらに居られますね。さぁ、お嬢様行きましょうか」
「え、えぇ。でも、ヴィオラ……この人の多さでは前に進めないわ?」
(だって、目の前に人の壁が出来上がっているんだもの。……そういえば、取り囲んでいる人達女の人が多いわ。)
レイラ達の前には、街にいたであろう女の人達の壁が前に立ちふさがっているのだ。進もうにも進めなかった。
レイラの横で、ヴィオラは人だかりをめんどくさそうな顔で見ていた。
「そうですね。この中をお嬢様連れて行くのもめんど……いえ。これ以上進むと、お嬢様が危ないのであちらから来て頂きましょうか」
(今、めんどくさいって言いそうになったわよね? この頃、ヴィオラが私に対して接する時雑すぎだわ。私、一応お嬢様なのに……。ちょっと、ヴィオラと後から話し合わないといけないかしら?)
それよりも、レイラはヴィオラが言っていた事を疑問に思った。
「……ヴィオラ。でも、あちらから来て貰うって誰に?」
「え? ……まぁ、見てて下さい」
レイラにそう言うと、ヴィオラは大きく息を吸った。
「ユーリ様も居ない事だし帰りますか~。誰かは、お嬢様が居ないことを良いことに他の女の人とお話に夢中みたいですし~」
「えっ!? 帰るの?? 私、ユーリ様と会えるのを楽しみにしていたのに……。それに誰かって誰??」
ユーリに会えるのを楽しみにしていたレイラは、ヴィオラから帰るという言葉を聞き。肩を落としてしまう。
そんなレイラを見たヴィオラは、呆れた様な顔でレイラを見た。
「いや。お嬢様……何で冗談も通じないんですか?」
「え? 冗談だったの?」
(ヴィオラの事だから、本当に帰ってしまうのかと思ってしまったわ……。でも、今の何かしら?)
ヴィオラの行動を不思議に思いながらも、ヴィオラと話していたレイラは、いきなり後ろから自分の腰に手を添えられ、後に引き寄せられる。いきなり引き寄せられた為、少しふらついたレイラは誰かの胸元に倒れこんでしまった。
慌てて離れようとしたレイラの耳元で、よく知った声が聞こえた。
「……困るよヴィオラ。帰るだなんて……僕だって、レイラに会えるのを楽しみにしていたんだからね? それに、民達を無下には出来ないだろ?」
「ユ、ユーリ様!?」
「やぁ、レイラ。久しぶりだね、会いたかったよ?」
「ユーリ様、ご、ごきげんよう。私も……あ、会いたかったですわ」
「ふふっ。そんなに顔を真っ赤にしてしまって……可愛いね? レイラは。」
(あぁ! そんな甘い顔で微笑まないで下さい! それに、距離が近いから凄く恥ずかしい……。もっと、顔が赤くなってしまいますわ!)
「……街に居るって言うこと、絶対忘れてるな。ハァ~。二人とも、早く行かないと色々と行けなくなりますよ」
レイラはヴィオラの言葉で、思い出してしまった。
(そうだったわ! ここは街だったわ! どうしましょ、凄く恥ずかしいわ!!)
二人は凄く目立っていた。
あんなに人の壁で前に進めなかったのに、レイラ達の周りには沢山の人が取り囲んでいて、皆が吃驚した表情でこちらを見ていた。
「そういえば、殿下がなんでまた街に居るんだ? また城から抜け出してきたのか?」
「いや、違うだろ。隣に女の人がいるぞ?」
「じゃぁ、隣に居られるのが婚約者の?」
「嘘っ! あの人が婚約者の!?」
周りに居た人達は、口々にそんな事を言う。
(あぁ。街に来てそんなにたっていないのに、もうバレてしまったわ……。それよりも気になったのが、もしかしてユーリ様……。時々、城から抜け出して街に来ていたのかしら? 街の方がユーリ様が来ている事に驚かないと言うことは、頻繁にあるのかしら?)
そんな事を思い、レイラはユーリの顔を見つめる。
ユーリはレイラと視線があった後、レイラを見ながらニコリと微笑み、前を見据えた。
「ふふっ。つい、婚約者が可愛らしくて愛でてしまったよ。邪魔して悪かったね? 皆、仕事に戻っておくれ。」
ユーリがそう言うと、周りの人達からは笑いや悲鳴が聞こえていた。
そして、レイラ達を取り囲んでいた人達が仕事に戻る為にその場を去る時。皆、「婚約者様と一緒に店に来てくださいね!」や「楽しんで下さい!」などと、口々に言いながら去って行ってしまった。
周りに居た人達が、自分の仕事や日常に戻って行った瞬間、ユーリはレイラの方を振り向くと優しく微笑む。
「……さぁ、これから少し街をまわって楽しもうか? 愛しの婚約者殿?」
「……は、はい!」
レイラは、顔を真っ赤にしながらもユーリがはぐれないようにと手を差し出してくれたので、その手をレイラは緊張しながらもギュッと握りかえしたのだった。