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あの後、カーチス達はユーリとレイラの間に何があったのか聞きたそうにしていたが、レイラは誰かに言うのも恥ずかしいのでそそくさと部屋に戻って行ってしまった。
逃げる様に出ていってしまったレイラの後ろでは、カーチス達にヴィオラが捕まっていた。
レイラは部屋に戻り。落ち着こうと、メイドが持ってきてくれた焼き菓子を食べながら一息ついていると、カーチス達にやっと解放されたヴィオラが慌てた様子で部屋に入ってくる。
ヴィオラの手には、一通の手紙が握られていた。
「お嬢様! ユーリ様からお手紙が届いております!」
「えっ? ユーリ様から? 何かしら」
(ユーリ様ったら、会った時に何か伝え忘れてたのかしら……?)
そんな事を思いながらも、ヴィオラから手紙を受け取り手紙の封を開けてみる。中に書かれていたのは、近々街に出掛けようというユーリからのお誘いの手紙だった。
「えっ!? ヴィオラ、大変よ! ユーリ様が、一緒にお出掛けしましょうですって!」
「おっ! 早速デートですか!! 」
ヴィオラが一人でウンウンと頷いているが、レイラはそんな事も気にもせず。ユーリとのお出かけと聞いて、舞い上がっていた。
(あぁ、どうしましょ!! 凄く楽しみだわ! 街だったら、人も多そうだし動きやすい服の方がいいかしら? でも、ユーリ様に可愛いと思っていただきたいから、可愛らしい服でもいいわね! あら? でも何か忘れている様な気がするのよね……。)
街に行くと聞いて、レイラは大事な事を忘れている様な気がした。だが、思い出せないでいた。
「お嬢様。楽しそうな所申し訳ございませんが、お返事を書かなくて良いんですか?」
「そうだったわ! じゃぁ、ヴィオラ。この手紙よろしくね?」
「はい、畏まりました。」
返事を書いた手紙をヴィオラに渡すと、それを持ってヴィオラは部屋を出ていってしまった。
誰も居なくなった部屋で、レイラは一息つく。
「いけない。 嬉しすぎて、お返事書くのを忘れそうになってしまう所だったわ……。」
将来、ヒロインが出て来てユーリに振られてしまうかもしれない。でも、ユーリの事が好きだからお誘いが来ただけで、レイラは凄く舞い上がってしまうのだ……。
(今だけ……ヒロインが出てくる今だけでも、ユーリ様と一緒に思い出をつくってもいいかしら? ヒロインが出てきたら、私は身を引くから……。)
「レイラぁぁぁぁぁ!!」
バタンッ!
いきなり部屋のドアが勢いよく開いたと思ったら、目に涙を浮かべたカーチスが慌てた様子でレイラの部屋に駆け込んできた。レイラに近づくと、カーチスはレイラの両肩を掴み、泣きそうな表情でレイラを見ている。
レイラはびっくりした表情を一瞬したが、ノックをせずに入っていたカーチスを注意する。
「お父様? ノックを忘れてらっしゃいますわよ?」
「うぅぅぅぅ……ごめんよ、レイラ。それより! 今、ヴィオラから聞いたんだけど。殿下からお出掛けのお誘いがあったって本当かい!?」
「はい! 凄く楽しみですわ!」
カーチスは、ヴィオラと廊下ですれ違った時にレイラとユーリが出かける事を聞いたのだ。その事を聞いたカーチスは、出掛ける事を反対しようと急いでレイラの部屋に来たが、レイラのこの嬉しそうな顔を見ていると反対など出来なかった。いや、出来る筈がなかった。
カーチスは、親バカであったのだ。
「あぁぁぁぁ! なんて言うことだ! 僕の可愛いレイラが、あの魔王の子供と一緒に出かけるなんて!! でも、可愛いレイラが楽しみにしているのに反対なんて出来やしない!!」
(……お父様? その魔王って、この国の王様の事じゃないですよね? そして、その子供ってユーリ様の事ではないですわよね?)
そう思うが、レイラはカーチスに本当の事を聞けないでいた。聞けないほど、カーチスはレイラがユーリと出掛ける事にショックを受けたのか、膝をついて泣きわめいているのだ。
泣きわめいているカーチスを横目に、レオンは呆れた様な表情をしながらレイラの部屋へと入ってくる。
「はぁ~、父上。レイラにそんなみっともない姿を見せて……。殿下とあの魔王は違うんですから、変な事はしないでしょう。レイラ、失礼しているよ?」
(お兄様まで……。それを言ってしまったら、ダメじゃないのかしら? ユーリ様や陛下は、この国の王族なのに……。これって、不敬罪にならないのかしら?)
頬に手を当てそんな事を考えているレイラを余所に、レオンはにこやかに微笑む。
「レイラ? お出掛け楽しんでくるんだよ? 殿下に何か変な事されたら、すぐにお兄様に言うんだよ?」
「え、はい! 分かりましたわ! お兄様!!」
(お父様もお兄様も変ね? ユーリ様が変な事なんてするわけないのに……。)
レイラは、何故か否定も出来ないほどの爽やかな笑みを浮かべているレオンの方が、怖いと思ってしまったのだった。
街と聞いたレイラは、出掛けるという嬉しさがあったが、何故か不安もあった。
だが、それ以上にレイラはユーリとのお出かけが楽しみで一日中ニコニコ微笑んでいたのだった。