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レイラは、ユーリを見送りに行っていたヴィオラが戻ってきたのにも気づかず、ヴィオラに声を掛けられるまでレイラの意識はとんでいた……。
「ユ、ユーリ様が私の手にキ、キ、キスを!! あぁ……今、絶対顔が赤いわ!」
「やっと、本性を現してきましたね……。」
「えっ?」
ヴィオラが何かを言ったが、レイラは赤くなっているであろう顔を冷ますのに必死で聞いていなかった。
「いえ。何もありません。……良かったですね、お嬢様。次は、ユーリ様と仲良くなるためにデートしないとですね!!」
「な、な、なっ!! デ、デート!?」
(ユーリ様とデートなんて!! 緊張してしまって、楽しめる自信がないわ!)
そんな事を思いながら、熱くなっていた顔を冷まそうとレイラが手で顔を扇いでいると、部屋の扉がノックされ。ヴィオラが見に行く。
「誰か来たの?」
「お嬢様。カーチス様とレオン様がお帰りの様です。おお通ししても宜しいでしょうか?」
「あら! 二人とも帰って来られたのね! えぇ! お通ししてちょうだい?」
「畏まりました」
レイラは、帰って来た二人を迎え入れる為に座り直し、姿勢を正す。
ヴィオラが半分開けていた扉を開くと、金の長髪を後ろで括っている男と、金の短髪の男が二人立っているのが見えた。
二人とも水色の瞳を細めながら、嬉しそうにレイラを見ている。
レイラも二人を見ると、つい笑顔になってしまう。それだけ、レイラにとって二人は大切な家族なのだ。
「お父様とお兄様! お帰りなさいませ! お出迎え出来なくて、申し訳ございません。」
レイラが立ち上がり。二人の方に駆け寄ると、二人は手を広げてレイラを受け入れる。
金の長髪を後ろで括っているのが、レイラの父でもあるカーチス・フォーカス。金の短髪なのが、兄のレオン・フォーカス。
カーチスはフォーカス家が治めている領地の領主でもあり、この国の公爵の一人でもある。
フォーカス家が治めている領地では、野菜や果物。鉱物も採れる為、財力が豊かなのだ。
その上。カーチスが領主となってからは、戦いにおいて負け知らずでもあった。
レオンは今学園に入っており、勉強も武術も出来てしまうレイラにとって自慢の兄なのだ。
容姿も整っているからか、パーティーなどではレオンの周りには令嬢達が集まる程人気だ。
「「レイラ~! 今帰ったぞ~!!」」
そう言うと、二人はレイラを抱きしめる。
注目される二人だが、レイラの前では外での面影もないぐらいレイラを溺愛している。
だが、この光景はこの家では日常だ。
(噂で聞くお父様は、策士で何を考えているのか分からないぐらい怖いと聞いたけれど、そんな風には見えないわ……。)
レイラに母親は居ない。レイラを産んだ後、もともと体が弱かった母は亡くなってしまった。だが、カーチスやレオンはレイラを溺愛していたのでレイラは寂しくなかった。
(こんなにも、家の人達に溺愛されたら。そりゃあ、我が儘なレイラが出来上がってしまうわ……。)
「レイラ~! 久々だね~。元気だったかい? ……ん? レイラ、何か顔が赤くないかい?」
レオンは、レイラの顔が赤い事に気づいてしまった。
ユーリに口付けをされ、顔が熱くなっていたのがまだ引いていなかったのだ。
「気のせいですわ、お兄様。さぁ、ヴィオラが紅茶を淹れてくれたので、席につきましょう?」
「そうだな。そういえば、レイラ。先程誰か来ていたのかい?」
レイラは、話をそらそうとレオンに椅子に座るのを勧めるが、先に座っていたカーチスが紅茶を飲みながらそんな事を聞いてくる。
(ヴィオラが、ユーリ様に出していた紅茶を下げていたのを見たのかしら?)
レイラが不思議そうにしていると、こちらに帰ってくる時に家の方から来る馬車を見たと教えてくれた。
「はい。先程、ユーリ様が来られていましたわ」
「「ブフッ!!」」
「えぇー!?」
そう言った瞬間、二人は紅茶を吹き出していた。
「レ、レイラ。いつの間に、殿下のお名前を呼ぶようになったんだい? 昨日までは、殿下と呼んでいただろ?」
「今日ですわ。ユーリ様が名前で呼ぶようにと……」
レイラは二人にそう言いながら、ユーリが名前で呼ばなかったらお仕置きだと言っていた事や。ユーリが帰り際、手にキスをした事をレイラは思い出してしまい、また顔が熱くなる。
必死に顔を扇ぐが、先程のユーリの仕草や触れた所を思い出すと、さらに顔が赤くなっていく。
(あぁ~、思い出しただけでも恥ずかしいわ!! 穴があるなら、隠れてしまいたいわ!!)
「「(あの腹黒殿下、レイラに何をしやがった……!)」」
二人はヴィオラに詳しく話を聞こうと振り向いたが、ヴィオラは危険を察知して。そそくさと、部屋を後にした所だった。
レイラは、悔しそうにしている二人を余所に、恥ずかしくて顔が赤らんでしまっているのを必死に直そうと、手で顔を扇いでいた。
そんな光景を見ながら、レイラが大好きな二人は後からヴィオラを必ず捕まえようと決意していたのだった……。