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心地の良い風が吹いており、風が頬を撫でる。手に本を持ち、風に揺られている花や草を木の上から眠そうな目をしながら眺めている一人の少女が居た。
その少女……レイラ・フォーカスは公爵令嬢でもあり、金色のふわふわとした髪の毛にいつも眠そうな目をしているのが特徴だ。
レイラには、前世の記憶と言うのがある。
それを思い出したのは、まだレイラが4歳の頃だった……。
レイラは家の階段から落ち、その衝撃で前世の記憶を思い出したのだ。
前世では、日本という国で生まれた。前世での生活は充実しており、幸せな人生を送っていた。やりたい仕事につき、幸せな家庭をもち、趣味だってあった。仕事の休みの日には、大好きなファンタジーや恋愛の小説を読みながらのんびりとするのが好きだった。
そう。この世界は、前世でよく読んでいた恋愛小説と同じだったのだ。
その物語の中のレイラは、ヒロインに婚約者を取られてしまったと思い、嫉妬でいじめてしまう悪役令嬢なのだ。
意識が戻り、自分が小説の中の悪役令嬢と同じ名前で転生していたと分かった時は、ショックでレイラは泣きそうになった……。でも、その時は幸いにもまだ物語は始まっていなかった。物語は、学園に入学してから始まるのだ……。
婚約者は居るけれど、レイラはヒロインにまだ出会って居ない。もしかしたら、今からでもフラグを叩き折ることが出来るかもしれないと、レイラは考えていたのだ。
だから、レイラは記憶を思い出してからはあの手この手を使ってフラグを叩き折ろうとしていた。
「頑張ってはいるけれど、空回りしている様な気がするのよね~」
「レイラお嬢様ぁぁぁぁぁぁ!!」
レイラがポツリと言葉を落とした時だった。
向こうの方からレイラの従者が、大きな声で叫び慌てた様な表情をしながら、全速力でこちらに走ってくる。
「あら? 見つかってしまったわ」
そう言いながら、レイラは頬に手をあて。困ったような顔をする。
「この場所がばれてしまったら、もうここには来れないわね……。」
「そんな所で何してるんですかー!!」
「なにって、日向ぼっこに決まっているじゃない!」
レイラは、従者にむかって元気よく親指を立てて言う。
記憶が戻る前も、前世でもレイラは凄く活発な子だった。暇さえあれば、木の上で寝たりしているのだ。そんな光景が、この家では日常だった。
その度に、レイラは従者に怒られているのだった。
そして、レイラが居る所を見上げながら怒っている従者の名前はヴィオラと言う。
レイラの7歳の誕生日に、お父様が「何か1つ願いを叶えてあげる」と言ってくれたので、「では街に行きたいです!」と、言って行った街でレイラが拾ったのだ。
あの時のヴィオラは、ボロボロになった姿で路地裏に座り込んで居た。
レイラは、傷だらけになっていたヴィオラを家まで連れて帰り手当てをした。その後、両親に捨てられてしまったと泣いているヴィオラを、レイラは自分の従者として公爵家で引き取る事にしたのだ。
何故か、一目見たときからレイラはヴィオラに引かれた。
引き取られた後、レイラの家族や使用人達にヴィオラは可愛がられた。
それからと言うもの、ヴィオラはレイラと一緒に居る為に執事としての仕事を覚え、公爵令嬢を守る為の技術を身に付けていった。
全て、自分自身を助けてくれたレイラや引き取ってくれた公爵家の為に……。
レイラとヴィオラは同い年。
今、レイラとヴィオラは10歳を向かえていた。
「レイラお嬢様! 今日は旦那様がお客様が来られるので、大人しくしてるように! と言ってらっしゃったのに……。何してるんですか!」
そう言いながらヴィオラは、レイラを木から下ろした。
レイラの父が言っていたお客様というのは、婚約者の事だ。レイラには、4歳の時に出来た婚約者がいる。そう。その人こそ、物語にも出てきて最後にレイラと婚約破棄をする人物なのだ。
(何故、記憶を取り戻す前に婚約なんてしてしまったのかしら!! 思い出していたら、絶対していないのに!)
レイラが記憶を思い出してからは、婚約者の人と会うのを避けていた。レイラの婚約者は、優しく。イケメンだと言う事もあり、小説を読んでいた読者からは人気があったぐらいだ。
自分自身、小説を読んでいた時からその人が大好きだった。だから、会ってしまったら絶対好きになってしまうと思っていたのだ。
だが、家の者達はその事を許さなかった。婚約者でもあり、この国の王子でもあるのだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!! 会いたくないのよ~!!」
「レイラお嬢様、何いきなり叫んでいるのですか。また、変な顔になっていますよ? さぁ、お待たせしているので早く行きますよ!!」
「変な顔って何よ! ……それよりも、行きたくないの! 私はお部屋に戻るわ!!」
「はいはい。行きますよ」
レイラは行きたくないと叫ぶが、ヴィオラはそんな事を叫んでいるレイラを無視して、逃げようとしていたレイラの首根っこを捕まえて捕獲する。レイラは、ヴィオラに引きずられながらお屋敷に戻ることになってしまったのだった……。