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FCカーネイション

 FCカーネイションの成り立ちだが、かなり古いらしい。

 魔王領の全クラブの中でも最古参の部類だそうな。

 元は戦の勝利を祈願して、奉納試合のように巫女がサッカーをしたのが始まりだという。

 それからこの間の試合や選手に話を聞く限り、この世界のサッカーは、現代のサッカーよりかなり古い印象だ。

 と言ってもオフサイドはあるから、大昔って言うほどでもない。

 今主流のボールの支配率を重視するポゼッションサッカーとかじゃなく、もっと前、全員が守備も攻撃もこなすトータルフットボールより更に前の縦ポンサッカー。

 つまり、強力なフォワード任せだ。

 異世界に迷い込んだ地球の人間が広めたんだとすると、きっとかなり前の人だろう。

 他の種族チームがあまりに強いので、人間チームは引きこもりカウンターサッカーばかりやってきたようだ。

 でも、相手があれほどのフィジカルを持っていて個人技でなんとか出来てしまう以上、得策じゃない。

 FCカーネイションが堅守スタイルでも勝てないというのは、まさにそこに原因があるのだろう。

 そうだ、これも忘れていた。

 FCカーネイションは、女子サッカーリーグであるキングスリーグに属している。

 ホームアンドアウェー形式で戦う、オーソドックスなリーグ戦で、降格は無し。

 特徴は地球のように国や地域で対抗するのではなく、種族間対抗のリーグだという事。

 スペインにはバスク人だけで構成されるアスレティックビルバオってチームがあるが、全部がそういうコンセプトのリーグと言える。

 なお、ホームアンドアウェー方式からわかるように、ホームタウンはそれぞれ存在する。

 カーネイションは人間代表のチームなわけだ。

 他に9チーム存在するので、全10チーム。

 ヒトのFCカーネイション。

 サイクロプスのモノアイズ。

 ミノタウロスのラビリンスSC。

 ハーピィのアスレティック・フェザー。

 ケンタウロスのFCケイローン。

 ヒト型の蟻であるミュルミドーンのクイーン04。

 コボルドのFCマーキュリー。

 スライムのぷにっとFC。

 リザードマンのグリーンスケイルス。

 そして魔族のグレーターデーモンズ。

 下半身が蛇のラミアや、下半身が魚のマーメイドといった種族を除き、大半の種族に代表チームがある。

 そういえば、エルフとオーク、ゴブリンは極端に数が少ないのでチームはないそうだ。

 彼らもまたホシビトとして稀に現れるだけで固有の種族ではないとか。

 とりあえずファンタジーに出てきそうな種族はだいたい存在している。

 閑話休題。

 とにかくそんな10チームでリーグ戦を争い、優勝したチームには魔王より杯が授けられ、直々に願いを聞いてもらえるという。

 それは非常に名誉な事で、どこもしのぎを削っている。

 と言っても、1位と最下位は毎年ほぼ同じ。

 1位が魔族、最下位がヒトだ。

 ……なるほど。

 だから一勝しただけでこんなにお祭り騒ぎなわけだ。

 そう、昨日あの試合があってから一日経っているのだが、一睡もしていない。

 白々と空が明るんできているが、チームメンバーたちは飲めや歌えやの大騒ぎ。

 クラブハウス――と言うにはほったて小屋と呼んだ方がいいんじゃないかという木製の小屋――の食堂は、選手たちが祝勝会をしていたのだ。

 流石にユニフォームからは着替えてはいるが、シャワーを一度浴びたくらいでは勝利の熱気が消えなかったらしい。

 選手たちが祝勝会、とは言ったものの、FCカーネイションにはクラブスタッフや用具係ホペイロはおろか、監督すら居ないという。

 なので、思い思いに用意した料理や飲み物を好き勝手に食べているだけだ。

 それでも、楽しそうだった。

「おー! こんなに楽しいのは久しぶり~」

「にょろんにょろろんにょんにょろろ~ん~」

「我、栄光の美酒に酔いしれし……」

 何でも一〇年ぶりの勝利らしく、ここに居る彼女たちは誰一人として勝利の経験がないのだというから、喜ぶのも自然だろう。

 自分はというと、正直それに乗りきれないでいた。

 試合に出れたのは嬉しいし、勝てたのも嬉しい。

 だけど、あくまで通りすがりの助っ人。

 そこまで喜べるほど、思い入れがなかった。

 一人で隅に陣取って料理をつまんでいたのだが――

「おいおい、どうしたヒーローさんよ~! もっと飲めよー!」

 ミカンは上機嫌で思いっきり絡んで来る。

 これでも全員シラフだ。

 この世界、地球と違って飲酒可能な年齢制限があるわけじゃない。

 種族が多すぎて成長もマチマチなので、あまり意味がないからだ。

 だが、巫女は酒を飲んではいけないらしく――この世界で酒は清めの意味を持たないそうだ――ただりんごジュースを飲んでるだけなのだが、脳内麻薬がどばどば出ている模様だ。

「お、おう。飲んでるよ。というか腹タプタプだ」

「なーなー、このままチームに入るんだろ?」

「……う」

 そう言われても。

 この世界の情報は、さっき言ったように集まって来た。

 宴会の中で、色々メンバーに聞きまわって情報を集めたからね。

 でも、身の振り方については、正直決めかねている。

 というより、相談できていない。

 こんなに喜んでいるメンバーに、切り出すタイミングじゃないと思ったのだ。

 自分はやっぱり地球の人間だから、戻れるなら戻りたい。

 そりゃ、試合に出れるのは嬉しいけど、だからって故郷を捨てたいわけじゃない。

 実際、それほどまでの覚悟があったら、転校するなり外国に行くなりで、試合に出る事は出来ただろう。

 ……もちろん、そんな覚悟はなかったけれど。

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