ゴール
――が
「……任せて」
銀髪のDF・シルヴァが俺の脇を駆け抜けた。
その際、前線を指さしているのが見えた。
シルヴァの表情に、油断はない。
そして実際に、オロのトラップが大きくなったところを死角から飛び込んでボールをカットした。
冷静で、何よりクレバー。
シルヴァはボールを茶髪のキーパーに戻す――と見せかけて、アウトサイドで蹴って横に流す。
受けたのは黒髪のDF・無口なヤミ。
彼女には少し驚きが見えた。
ここで自分に来ると思っていなかったのか、トラップが大きくなる。
パスの出し手を探して硬直しそうになる。
だがそこに――
「ヤミたん! クロウたんへ!」
叫んだのは茶髪のキーパー・ムギ。
絶妙なコーチングだ。俺の呼称以外は。
「……!」
ヤミは頷き、ボールを中央へ蹴り出す。
正確なキックだった。
しかもバックスピン回転がかかっていて、俺の足元にぴたり収まる。
やっぱり、みんなの基礎はきちんと出来ているのだ。
なら、足りないのは体格なんかじゃなく、戦術だ!
俺は右ボランチの赤髪のレットとパス交換しながら、中央を駆けていく。
当然、囲むように敵が殺到する。
相手も必死。
ファウルをいとわない猛突進だった。
本来なら、ここでファウルをもらうという手もある。
でも、あんなに巨大な相手に対しファウルをまともに受ければ立ち上がれないだろう。
11人ぴったりのウチでは自殺行為だし、あの高さを持った相手にフリーキックで得点は難しい。
とにかくファウルを受けるのは避けたい。
「にょろんっ!」
幸いにも、レットは驚くほど敵のファウルをかわすのが上手かった。
ぬるぬるした動きで相手を翻弄する赤い影。
これまでも、きっと強大な相手とばかり当たっていたのだろう。
他のメンバーも全体的に、かわすのが上手い。
その中でも、守備もしボールも運ぶボランチ――守備的MFであるレットは、特に猛攻をかわす術に長けていた。
あまり前には進まないかもしれないが、それはこっちの仕事。
「にょろろんっ!」
俺の元に飛んでくるボール。
相手は3失点だけは避けようと、1トップを残して全員戻っている。
ここは守備を引き出す必要がある。
セオリー通り、ミドルシュートが必要だ。
大柄な敵選手たちが密集し、シュートコースはないが……ハッタリでもいい。
「うらっ!」
思い切り力を込めてシュートを放つ。
それはキーパー正面へ飛んでいく。
弾きでもしてくれればもうけものだ。
『ウガッ!』
が、そうそう上手くはいかないか。
キーパーは難なく受け止めた。
男子のシュートだって言うのに、平気で止めている。
みんな、よくこんなの相手に戦ってきてたな……。
キーパーは、近くのDFにボールを転がして渡し――
「もーらいっ!」
そのボールがDFに渡る前に突如その背後から現れたブルーがそれをカットした。
敵の巨体を活かし、キーパーから見えないように陰に隠れていたのだ。
『ウアッ!?』
ペナルティエリアそのすぐ外、コースは厳しいがほとんどキーパーと一対一。
絶好のチャンス。
「こっちっす!」
ペナルティエリア内、逆サイドで言ったのは、水色の髪・長身のアクア。
SBの彼女がここまで上がって来ていた。
その事で、キーパーも迷う。
一方で驚いたDFは彼女にも殺到する。
そこでブルーは――
「おー、んじゃこっち!」
中央を走って来た俺に向けてボールを戻した。
アクアとブルーに敵が引きつけられている上、今度は加速がついて――
「いっけえっ!」
全力のシュート。
足から伝わってくる絶好の感触。
ゴールネットが揺れ、凄まじい歓声と絶叫がスタジアムに響き渡った――