虹
数万人が詰めかけたスタジアムで、雨音がはっきり聞こえる。
直後、怒号と区別がつかないほどの歓声が鳴り響いた。
観客が飛び跳ねているのか、地震のようにスタジアムが揺れている。
奇跡の瞬間に、声にならない声で人々が叫んでいた。
だが、試合が終わったわけではない。
ロスタイムは3分目安と発表され、残り時間は5分以上ある事になる。
会場の熱狂とは裏腹に、選手たちの表情には落ち着きが見えた。
それに呼応するかのように雨の勢いが弱まっていく。
雲の切れ間に光が差し始めた。
「同点でも構わないわ! そうすれば勝ち点で上に行ける!!」
プラティナが叫び、ボールを呼び込もうとする。
だが――
「行くぞみんなああああっ!!」
ミカンの雄たけび。
「おおおおっ!!」
それに呼応してメンバーたちが叫ぶ。
「う、嘘でしょ!?」
後半も残り5分で、カーネイションが取った行動は衝撃的なものだった。
それは、ハイプレス。
前線からの激しいチェイス。
まるで試合開始時のように、凄まじい運動量でプレスをかけ続けたのだ。
それはきついなんてものではない。
本来なら、走るだけでも苦痛なはずだ。
足は棒のようになり、肺や腹筋に痛みが走る。
全身の筋肉に針金を巻かれたように苦しいはずだ。
それでも、走る。
俺は、その姿に、思わず涙を流していた。
そして、このチームで一緒に戦える幸運に、心から感謝した。
「ぐっ、負けてたまるもんですかーっ!!」
攻め手を欠き、遮二無二ロングシュートを放つプラティナ。
強烈なシュートだったが、この時間でもディフェンス陣が連携してシュートコースを限定した事で、飛んで行ったのはキーパー正面。
「これは爆弾! 落とさないよっと!」
シュートはムギががっちりキャッチ。
そして、ゴールキックでボールを前線に飛ばした瞬間――
終了の笛が鳴った。
それから先は、よく覚えていない。
あまりにも凄まじい歓声に耳がおかしくなった上に、担架で寝ている上に次々と選手たちが飛び込んできたからだ。
全員大泣きだったのだけは覚えている。
そして、もみくちゃにされる中で傷口が開き、失血のためか圧迫のためか――
俺の意識は薄れ――
最後に、空に架かった美しい虹だけが見えた――




