青
「そんなバカな!?」
絶叫するプラティナ。
彼女は、完全に冷静さを失っている。
絶対的エースかもしれないが、代えるべきだったのは彼女なのだ。
連携を乱している。
それは、人間相手の苦戦や、俺に怪我をさせたなど色々理由はあるだろう。
いずれにせよ、すぐに平常心を取り戻せる状態ではない。
俺が監督なら、今からでもプラティナを代えるところだが、向こうの監督は動かない。
いや、動けないのだ。
既に交代枠は2つ使ってしまった。
選手の負傷退場を考えれば、1枠を残していたい気持ちも理解できる。
1点を取っているとは言え、イエローを貰っている上に調子が悪いにも関わらず代えられない……それはこのチームが「戦術プラティナ」と言えるチームだった事の証明だ。
その戦術が崩壊した今、彼女だけでなく監督にも混乱が見られる。
つまり、完全に今こちらのチャンスとなっているのだ。
「よぉーし! じゃんじゃん行くよー!」
ブルーは上機嫌で敵陣を切り裂いていく。
普通、喋ったりしていれば集中が切れそうなものだが、彼女は違う。
自然体がブルーにとって最大の集中なのだ。
リラックスしているから余計な力も入らず、気負っていないから気持ちも揺らがない。
そして、本能に任せるから反射も超反応だ。
それが、完全に身体能力で上回る相手を、手玉に取っていた。
ブルーはパスをどんどん通していき、得点にこそ繋がらないが、ビッグプレーが次々と飛び出す。
それは仲間にも波及し、ポストにこそ阻まれたが、ミカンがオーバーヘッドを放つなど、会場が大いに沸いた。
相手は、完全に足が止っていると言っていい。
一方的に制圧し続けてきたチームがゆえに、防戦となるともろさを露呈し始めたのだ。
加えて、超格下相手の苦戦で、精神的なプレッシャーも想像を絶するものがあるのだろう。
頼みのフィジカルも、疲労から正確性を失った事で、ファウルを量産する結果となった。
先ほどのプラティナを含め、イエローカード持ちが4人。
結果として積極的なプレーも減ってしまっている。
更に時計は進み、後半40分を経過。
最早、ほとんどグレーターデーモンズファン一色だった会場の空気が変わりつつある。
再び中盤でブルーにボールが渡った時、スタジアムには歓声が響いた。
観客が、ブルーを『そういう選手』だと認識した証拠だった。
交代で入った相手DFが泡を食って止めにかかる。
疲れがない分、動きが鋭い。
こちら有利に見えても、相手は地球の男子プロ並みの肉体なのだ。
一瞬の油断で簡単に戦局はひっくり返ってしまう。
が――
「うん、これで行こう。楽しそう」
ブルーはリフティングを始めると、そのまま頭や膝でリフティングを続けながら相手を抜いた。
それはまるでお手玉をするかのような華麗な動きだった。
よほど実力が離れている場合でも無ければこんなプレーは出来ない。
非現実的なプレーにスタジアムも歓声に包まれる。
今、この場を支配しているのは間違いなくブルー。
本物のファンタジスタ。
「構わん! ファウルしてでも止めろ!!」
アッシュが叫ぶ。
確かに、それしかない。
それもまた戦術だ。
だが――
「おおおおっ!」
「おっとっと」
背後からのスライディングを、ブルーはボールごと飛び上がってかわす。
「なっ!?」
後ろに目があるのではないかという集中。
いや、勘なのか?
もう、俺の想像を完全に超えている。
今の俺は監督というより、ブルーという選手のファンだった。
彼女は雨を切り裂き、更に突き進んでいく。
この間なら、ガス欠で倒れていた頃だが、まだ30分程度しか出ていない今日は元気が有り余っている。
「おおおおお!!」
雄たけびを上げてアッシュが突っ込んで来る。
完全にファウル覚悟の突進だ。
だが、それは冷静さを失っている証でもある。
なぜならうちは、プラティナのような『エースでもっているチームではない』。
「きっといるよね」
ブルーが、完全にノールックで逆サイドにボールを放った。
それは、集中とかそういう問題ではない。
アッシュや寄せて来ている敵DFの体が邪魔になって絶対に見えないはずの角度。
同時に、アッシュによってブルーは引き倒された。
だが、笛はならない。
それはなぜか?
虹のように弧を描くボールは、オフサイドギリギリで翡翠に渡ったからだ。
ファウルを流すのは審判がうちの有利をみたから。
ブルーに気を取られるあまり、翡翠のマークを外してしまう相手の致命的なミス。
「これで決めなきゃ、FW失格ですわね」
キーパーと一対一。
翡翠は冷静に、ゴール左隅へシュートを突き刺すのだった。
瞬間、時が止まったかのような静寂が訪れた。




