こっち
「わーい!」
誕生日に初めてサッカーボールを与えてもらった子どものように、ブルーは笑顔だった。
雨なんて全く気にしていない。
いや、雨すら楽しんでいた。
それこそ子どもの頃、親に怒られるまで雨の中外で遊んでいたように。
魔族とて反射神経は人並み。
しかし、極限まで集中したブルーの反射神経は、常人のそれを遥かに超える。
人間の限界ぎりぎりの超反応なのだ。
しかも、相手は疲弊し始めている中、ブルーは入ったばかり。
これでは相手にならない。
「もーらいっ!」
敵キーパーから組み立て直そうとしている敵陣深くで、敵SBからボールをあっという間に奪取。
「こ、このっ!」
奪い返そうと相手が寄せた時にはもうボールはない。
中央にクロスとして上がっていた。
「チャンスっす!」
「させん!」
ハイボールにアクアが飛びつくが、アッシュに体をぶつけられ、ヘディングは綺麗に当てる事が出来なかった。
ボールはそのままタッチを割る。
ブルーが入った途端、2度もチャンスが生まれた。
観客もそれを感じ取ったのだろう。
スタジアムは異様な空気に包まれていた。
あの常勝グレーターデーモンズが後半を20分過ぎて、万年最下位のカーネイションと同点なのだ。
失点自体は事故と考える事も出来るが、追加点どころか主導権を明らかに奪われ始めている。
何か奇跡が起こりそうな、体を震わす予感。
どちらのサポーターも、得体の知れなさを感じているのだ。
ここで相手の監督は、自軍の体力の消耗を感じたのか、慌てて2枚の交代枠を切って来た。
DFとMFを1枚ずつ交代させたのだ。
フレッシュな選手を入れるのは事態の解決には特効薬と言える。
だが、代えるべき選手を間違えている。
代えるべきは――
「こんな事……認められませんわ!!」
ボールを受けたプラティナが一気に中央突破を図る。
一番走り回らされたであろうに、この時間にこれだけのドリブルが出来るのだから、やはり彼女も規格外。
その底なしの体力で、前線からの守備に入った翡翠を華麗な切り返しで抜き去る。
「くっ!」
ドリブルのまま、中央を突き進む彼女の前に現れたのは、やはりブルーだった。
立ちはだかる彼女を前に、プラティナもその侵攻を止め、抜くチャンスを伺う。
鬼の形相でブルーの隙を探る。
だが、ブルーは隙だらけで逆に隙がないようにすら見える。
「ねえ、どーしたの? 怖い顔して。楽しくないの?」
「楽しさなどと! 強き者が戦うのはその義務。我が身の愉悦の為に戦うなど愚の骨頂ですわ!」
「おー、そうなんだ。でもボクは『こっち』行くよ」
「!?」
怒り、ブルーを抜きにかかったプラティナだったが、その鋭い切り返しにブルーはあっさりついて行く。
それどころか、そのボールを奪ってしまう。
「こっちの方が『楽しい』しさ」
にこっと笑って急加速。
傍目から見たら何が起きたのかわからない人も多いだろう。
プラティナが仕掛けたはずが、交錯した瞬間にブルーがボールを持ち、そのままドリブルをしていたからだ。
手品を見ているかのような一瞬の攻守逆転。




