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 ハーフタイムに、誰も俯く者は居なかった。

 ミカンは「俯き飽きた」と言っていたし、それは真理だろう。

 全員が前を向けている。

 控えに回っているブルーも、その目の輝きは確かだ。

 全員で後半の作戦を確認し、雨が降りしきる後半戦のピッチに臨む。

 天然芝のため、激しい試合の中で禿げた箇所はもう泥の水たまりのようになっている。

 そんなピッチのセンターサークルで、再びプラティナと向かい合う。

「とどめを刺してあげますわ」

「勝つのはうちだ」

「はぁ? どこからその自信が?」

「すぐわかる」

 後半開始。

 こちらボールでスタートすると同時に、ボールを受けたミカンが突っ込んでいく。

 虚を突くようなドリブルだったが、だとしても一人での突破など不可能。

「翡翠ィ!」

「わかってます!」

 ミカンから翡翠へグラウンダーのパス。

 水切りのように滑ってボールが飛んでいく。

 スリッピーなピッチコンディションでも、絶妙のコンボネーションだ。

 高速で迫るDFをかわすのではなく、引きつけてからパスを送る事でチーム全体の攻撃を前に進めていく。

「しまっ……!?」

 が、敵の中盤でミカンがパスミスを起こしてしまい、相手SBにカットされてしまう。

 このピッチなら多少のミスは仕方ない。

 急いで守備に回る。

 相手は1点を取って余裕が出たのか、じっくり攻撃を組み立てている。

 正直、相手のフィジカルを考えたら速攻の方が怖いので、こちらとしては有難い。

 このあたりも、相手の戦術の未熟さが見てとれ、つけいるチャンスになる。

 具体的には――

「おおおおっ!!」

 俺は一気に加速し、組み立てを行っている敵の右SBに突っ込んだ。

「なっ!?」

 相手は目を丸くする。

 まだ距離があるのに遮二無二の突進なのだから、驚くのも無理はない。

 それでパスミスをしてくれればありがたいが、そう話は上手くいかない。

 相手はあっさりとボールを中央のMFへパス。

「うおおおっ!!」

 だが関係ない。

 今度はそのMFへ突っ込んでいく。

「な……バカか!?」

 初めてサッカーをする子どものようにボールだけを追いかけまわしていく。

 それはとてつもなく体力を消耗する行為。

 しかも、ボールカットの可能性は低い。

 相手は俺に追いつかれるより早く、ボールをセンターライン付近に居たプラティナへパス。

 今度はそこ目がけて走っていく。

「フン、何のつもりかしら」

 プラティナは嘲り、ドリブルでこちらの陣へ攻め込んで行く。

 呼吸は苦しく脚もパンパンだが、それに追いすがる。

 規格外のフィジカル持ちの相手でも、ドリブル中なら男子の俺の脚で十分追いつける。

 そこにレットが前から守備に走って来た。

「にょろん!」

「フン……」

 プラティナは挟まれるのを嫌い、ボールを右サイドのMFへパス。

 だが、コイツの性格ならすぐボールを要求するはず。

 彼女へのマークを切らず、先に回り込む。

 と言っても、既に危険水域であるゴール前……バイタルエリアまで入り込まれてしまっている。

 再びボールを受け取ったプラティナの前に立ちふさがる。

「ハァハァ……」

「ふふん、息を弾ませて追いすがって……まるで駄犬のようですわね」

 何とでも言え。

 どう言われようが集中は切らない。

「フン……!」

 プラティナが仕掛ける。

 だが、それは読んでいる。

 現代の地球では、プレーの科学的な分析が行われている。

 例えば、呼吸。

 意識していなければ、人は仕掛けの前に息を止める。

 例えば、体幹。

 重心の置き方で、どちらに抜こうとしているかわかる。

 冷静に、相手の動きを見抜ければ――

「なっ……!?」

 俺は抜きにかかろうとしてプラティナが、アウトサイドで切り返したところに足を伸ばし、つま先でボールをカットした。

 その身体能力で奪い返しに来るのは目に見えているので、即、逆サイドにボールを飛ばす。

「凍てつきし刻!」

 それを絶妙なトラップで受けたのはSBのメタル。

 一瞬でもモタつけば敵の俊足で追いつかれそうなものを、足の甲とスネの一部だけであっという間にトラップしたのだ。

 正直、信じられないレベルの技術だ。

 もう一度やれと言っても出来ないだろうが、ここでそれが出たのは最高だ。

「叛逆せし騎士!」

 相変わらず言ってる事は滅茶苦茶だが、敵の寄せを見るや、モモへパス。

「ナイス!」

 同時にモモを追い越す動きでレットがサイドから駆け上がる。

「いくのである!」

「よしきたにょろん!」

 こちらはこちらで相変わらずにょろんの使うタイミングが理解できない……というかにょろんの意味もわからないが、レットが得意の相手の攻めをかわす見事なドリブルで突き進む。 

 後ろに戻すと見せかけて、中央のスペースにパス。

 そこに走りこむのは俺だ。

「ハァハァ……」

 ボールには追いついたが、後半開始早々からのダッシュで呼吸も限界。

 だが、立ち止まる気はない。

「させませんわよ」

 こちらのパス交換の間に、回り込んできたプラティナが立ちはだかる。

 攻撃専門のコイツがわざわざ守備に来るあたり、よほどさっきボールを取られた事を腹に据えかねているらしい。

 あの僅かな時間に戻れてしまうあたり、癪だがやはりとんでもない身体能力だ。

 だが相手が誰であれ、押し通らなければならない。

 ボールキープしながら息を整える。

「いーや……させてもらう」

「生意気っ!」

 まっすぐ仕掛ける。

 相手のフィジカルは確かに上。

 しかし、この試合の中で弱点もはっきり分かって来た。

 ヤミの言ったように反射神経は人並みだという事。

 攻撃専門であるがゆえの、守備時の腰の高さ。重心の甘さ。

 そして――

「油断しすぎなんだよ!」

 俺は、アウトサイドに出すと見せかけ、エラシコで内側にボールを蹴りだした。

「ああっ!?」

 ボールは、プラティナの股下を通って後ろに抜けていく。

 股抜き。

 タイミングとコントロールが難しく、相手に読まれれば簡単に防がれてしまう。

 だからこそ、成功すれば極めて屈辱的な抜かれ方だ。

「う、嘘よっ!!」

 抜いたプラティナの顔は最早見えないが、その声には驚愕と恥辱の色があった。

 その声を置き去りに、一気に前に進む。

 すぐにDF陣が寄って来るが、既に敵陣三分の一……アタッキングサードに突入し、ペナルティエリア寸前。

 仲間の上がりを待ってこのまま行けるところまで――

「行かせるものかああああっ!!」

「危ないのである!!」

「えっ?」

 背後から絶叫が聞こえたかと思った次の瞬間、足元に強い衝撃を受け、体が宙に浮いた。

 雨でぬかるんだ泥が巻きあがる。

 一瞬遅れて、足元に背後からスライディングされたのだと気付いたが、もう遅い。

 そのまま吹っ飛び、芝生に叩きつけられた。

 冷たい雨の感触と、右の足元から駆け昇って来る激痛。

「えぎっ!」

 自分でも意外なほど、間抜けな悲鳴が出た。

 主審の笛が遠くで聞こえる。

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