無情
中央付近のスローインで、それを投げに現れたのはアッシュ。
彼女は助走をつけると――
「おおおおおおおおっ!」
雄たけびのような声を上げて、こちらの陣深くまでボールを投げ込んだ。
そのロングスローは、凄い勢いで相手の前線へ向かう。
長身のMFがそれを受ける。
オフサイドはない。
このパワープレイ、咄嗟にヤミやレットが寄せて行くが弾き飛ばされ、MFのヘッドによりボールはゴール正面に転がる。
そこに駆けこんできたのはプラティナ。
「もらいましたわ」
振りぬかれる一撃。
「くのっ!」
ムギはコースを読み切り、飛びついた――
が。
無情にもボールに指がかかることはなく、それはゴール右上隅に突き刺さるのだった。
前半30分。
あまりにも痛い失点だった。
「くそっ……!」
「おほほほ!」
漫画のように露骨に喜ぶプラティナ。
彼女に自由にさせない事で負荷をかけ、カードでももらえれば突破力が落ちるという皮算用は、大失敗に終わった。
これで更に調子を上げて襲いかかって来るだろう。
状況は、悪い方に一変してしまったのだ。
それを見計らったかのように雨が本降りを始める。
キングスフィールドは天然芝だから田んぼとまではならないだろうが、ボールは滑りやすくなる。
組織でパスワークを主体とするうちにとって、ボールコントロールが難しくなる分不利に働く。
結局、前半はそれ以上の失点こそ防げたものの、終始攻められ続ける事となった。
正直、追加の失点しなかったのは奇跡に近い。
シルヴァを中心としたディフェンスラインの集中と、ムギのコーチング、それからキャッチングの賜物だろう。
それから、窮余の策として用意していた0トップのフォーメーションに相手が面くらったのもある。
1トップのミカンを一列下げ、トップを0にする4―6―0へと布陣を変えたのだ。
プラティナなどは、
「FWがいないなんて諦めましたの? 半端に挑んでおきながら見苦しい」
と辛辣だったが、効果はあった。
スペインはリーガ・エスパニョーラの名将・シメオネ監督ほど綺麗に0トップを扱えたわけではないが、開き直っての守備で失点しなかっただけマシだ。
代わりに防戦一方となった事で、激しく体力を消耗してしまった。
ハーフタイムに引き上げていく両チームの顔色は、全くの正反対だった。
……だが、まだ手はある。
もういちいち諦めたりはしない。
――勝つだけだ。




