グレーターデーモンズ
10・
時は過ぎ、週末。
空は暗く、空気は湿っている。
時折、顔に雨の滴が一滴だけ落ちてくる。
いつ大雨が降り出してもおかしくない天気だ。
だが、サッカーは雨程度では中止になりはしない。
FCカーネイションのホームでグレーターデーモンズを迎える試合が間もなく始まる。
当然、我々FCカーネイションは棄権などしなかった。
キングスフィールドには多数の観客が詰めかけている。
それはビッグクラブであるグレーターデーモンズのファンがほとんどだが、カーネイションのサポーターの姿もあった。
流石に連勝したからと言っていきなり超満員のサポーター……というほど世の中は甘くないようだ。
だが、ゴール裏には見知った商店街の店主たちや、ヴァイオラの食堂の常連の姿も見えた。
それだけでも大きな一歩だ。
だからこそ、逃げるわけにはいかない。
試合開始直前、センターサークルで俺はプラティナと対峙する。
「なぜ棄権しなかったのです? 我々は王者として試合で手加減などしてあげませんわよ」
「優勝するためだ」
「は?」
嘲るでもなく、心底不思議そうな顔をするプラティナ。
そしてそのまま、キックオフの笛が鳴った。
ボールは相手から。
グレーターデーモンズは4―3―3でプラティナを1トップとする布陣。
ライン自体は低く、ファンタジスタが全盛期だった時代を彷彿とさせる。
だが、こちらはラインを高くとっており、そうそう自由にスペースを与えるつもりはない。
相変わらず、抜群の身体能力で突っ込んで来るプラティナ。
俺も前線から戻って守備に回るが、振り切られてしまう。
いくら気合いを入れなおしたとしても、身体能力の差は埋まらない。
だが、それで絶望する必要はないのだ。
それに拘泥するなら、俺を外した監督を非難できない。
そんな簡単な事も俺は忘れていた。
でも、ブルーが大事なことを思い出せてくれたから、もう迷わない。
焦らず、追いかける。
いくら黒人選手なみの足を持っていても、ボールを持っている以上、追いつけない道理はない。
この数日間、みんなで話し合い、勝つ方法を考えに考えた。
相手エースであるプラティナ対策は、その筆頭だ。
彼女だって、身体能力が高いだけで、別に無敵なわけではない。
それに気づけたのはヤミの一言だった。
「あの人……確かに速いけど……反射神経は……みんなと同じくらいだと、お、思う……」
その言葉を、今、プレーの中で確信した。
プラティナは、アクアを抜こうとしたが後ろから来た俺に気を取られるあまり、アクアが咄嗟に出した足がボールに当たって跳ねたそれを見失う。
そうして跳ねたボールの位置的にはヴァイオラが一番近かった。
そこにプラティナが突っ込み、ボールを奪ったのだ。
ヤミの言葉があったので、そのプレーを注視できたからわかった。
確かに、プラティナの反射神経に特別な違いは見えない。
むしろ動き出しはヴァイオラの方が早いくらいだった。
つまり、超反応に見えても、それは『見てからの行動』だ。
先読みしているのではないのだ。
反応が遅れても、高速の足で追いつける。
競り合いになったとしても、フィジカルで跳ね返せる。
それがプラティナのアドバンテージなのだ。
なら……やりようはいくらでもある。




