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太陽

 自分の腹の上に、少女がまたがっている。

 そんなラブコメ漫画のようなシチュエーションなのに、ブルーの真摯な瞳に下心なんて湧きようもない。

 まるで、聖職者にでも見られているかのようだ。

「……あのね」

 ブルーは俺の両肩に手を置き、言葉を選ぶように、ゆっくり喋り出した。

「うちは、みーんなサッカーが大好きなチームだった。でも、全然勝てなかった。そしたらね、どんどんみんないなくなった。チームメイトも、お客さんも……みーんな」

 前にも聞いた。

 カーネイションは、かつては名門だったと。

 もともと、魔王に奉納する試合に端を発したリーグにおいて、その創設のオリジナルクラブ。

 優勝経験こそないものの、昔はそれなりにヒト族からの人気もあって、メンバーも今みたいにギリギリではなく、スタジアムにも観客がもっといた。

 だが、魔族やサイクロプスといったフィジカル優位の相手に勝つ事が出来ず、人気を失って行った。

 そして、今の世代がチームに入った頃には、もう解散寸前だったという。

 というより、上の世代はついに心折れ、監督を含め全員辞めてしまい、チームは一度終わった。

 そこで、草サッカーをしていたようなブルーたちが集まり、チームを引き継いだのだ。

 個々人の事情は違えど、サッカーが好き、それは共通していた。

 だからプロとなった。

 当初は、20人近く居たらしい。

 だが、1人去り2人去り、11人が残ったのだ。

 かつての栄華は、王の名を冠するスタジアムにしか無く、それもむしろ観客の少なさを見せつけてくる。

「でもね、この間の魚やおじさんに言われたの」

「……?」

「2連勝って言ったら、『じゃあ今度見に行かなきゃな』って」

「……!」

「あとね、八百屋のおばちゃんが言ってたの。『嫁いだ娘がね、カーネイションがクイーン04に勝ったよって手紙くれたんだよ』って」

「……」

 肩をつかむブルーの手が、少し震えていた。

「クロウはね、変えたんだよ。ずーっと勝てなかったチームを勝たせたんだ」

「……」

 でも……俺じゃ魔族には……。

 思っていても、それは口に出せなかった。

「ボクね、サッカー大好き」

 にこりと笑う。

「でもね、『勝つと、もっと楽しい』んだね」

「……」

「だから、楽しくて楽しくて、この間は気がついたらスイスイって敵も抜けて、あとちょっとでゴールだったけど、ちょっと失敗しちゃった」

 そうか。

 いつもサッカーを楽しんでいたブルー。

 そんな彼女が、勝利を知ってもう一段階サッカーを楽しめるようになった時、あの極限の集中力を発揮できるようになったのか。

「……ってそれはどうでもよくて。……あのね、プラティナは凄いと思うよ。でも全然凄くない。クロウの方がずっと凄い」

「……え?」

「だってさ、プラティナがうちに来たら、うちは勝てるかもしれないけど、うちは勝ってないじゃん」

 言いながら、混乱した様子のブルー。

「あれ? 上手く言えないなー。あー、もー、ボクはバカだなあ……」

 ぺろっと舌を出す。

 バカだって?

 違う。

 お前がバカなもんか。

「なんていうか、クロウはさ、『ボクたち』を勝たせてくれたんだよ。クロウは、カーネイションにとって絶対に必要な人だよ」

 その言葉で。

 胸の奥でつかえていた塊が、溶けてゆく。

 それが、涙となって溢れた。

「う……うあ……」

 そうなのだ。

 俺は……俺はきっとただ一言「お前が必要だ」と言われたかったのだ。

 涙は止まらず、そんな俺の顔を、ブルーは真上から抱きしめた。

 ブルーの太陽のような匂いに包まれ、いつしか意識は消えていった――

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