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フィジカル

9・

 その日、最早練習など出来る状態に無く、俺は選手たちに帰るよう告げた。

 何より、自分自身、考える時間が欲しかった。

 ミーティングルームに戻り、布団に倒れこむ。

 そのまま転がって布団を巻きつかせるように被った。

 無理やり作りだしたその暗闇に、心を落ち着かせる。

 ……が、やはり集中できない。

 頭に焼きついた、魔族の超越的なフィジカル。

 テクニックだけなら、うちのメンバーでもプラティナより上はいるだろう。

 リフティングには驚いたが、あれはヤツが別に取られてもすぐ取り返せるからやっただけの事で、ボール奪取のリスクに目をつむれば俺にも出来る。

 シュートの精度も極端に高いとは言えない。

 実は一度ふかしてゴールを外している。

 いわゆる宇宙開発というやつだ。ゴールを大きく超えて宙に飛んでいく様から俗にそう呼ばれる。

 それでも、そんな事はもう関係ないのだ。

 元フランス代表のアンリとか、元イタリア代表のバロテッリ、元カメルーン代表のエムボマとか、そういったトップクラスの黒人選手並みの身体能力を、彼女は持っている。

 そんなもの、反則以外の何者でもない。

 人間のチームに、男が居ても構わないというのが、納得できた。

 あんな相手がいるなら、男子も女子も関係ない。

 ヒトの『完全上位互換』。

 それが魔族……。

 女子日本代表ですら、相手にアンリが居たらどうなるか。

 決して楽しい結果にはならないだろう。

 しかも、プラティナはエースとの事で、実力的には頭一つ抜けているかもしれないが、それに近い実力の者が他に10人もいるのだ。

 考えれば考えるほど、絶望感が広がっていく。

 絶対的なフィジカルの差。

 ここでも……それが壁になるのか。

 あのフィジカルにテクニックや組織なんて、役に立つのか?

 やっぱり……俺がやって来た事は無駄だった……のだ。

 スポーツは、限られた超人が競い合うもの。

 ……そうか。

 プラティナはそう言いたかったのだ。

 だからわざわざそれを見せつけに来た。

 悔しいという気持ちすら、浮かんでこない。

 そんな自分を、意外なほど冷静に見れていた。

 ショックと言えば、それがショックだった。

 ここで居場所を見つけた気になっていたのが間違いだ。

 地球でも居場所が無かった人間に、ここで居場所があるわけがなかったのだ。

 何が監督だ。

 何が戦術だ。

 何がテクニックだ。

 ……もし俺に、バロテッリみたいなフィジカルがあれば、プラティナを止められただろう。

 たった、それだけの話。

「……俺なんて……居なくても……同じか」

「どーん!」

「うごっ!?」

 打ちひしがれる俺の上に、何かが落ちてきた。

 いや、わかっている。

 ブルーが飛び込んできたのだ。

 それはボディスラムのように、的確に俺の腹筋を破壊した。

 息が詰まり、思わず布団を顔からどかす。

「え?」

 ふざけて飛び込んできた……そう思っていた。

 だが、布団をどかした先にあったのは、ブルーの真剣な顔。

 そのまなざしに、強い意志の光と、僅かな涙の滴が見えた。

「俺なんか居なくてもとか、言ったらダメ」

「……で、でも俺は」

「ダメ」

 反論、出来ない。

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