プラティナ
振り向くと、そこに居たのは青い肌に、輝く銀色の髪をポニーテールにまとめた少女。
170センチほどの長身に、均整の取れた胸と腰はモデル体型そのもの。
アンモナイトのようにも見える角を頭の左右に持ち、背中には可愛らしい黒い翼と、三角の穂先を持った尻尾を備える――魔族だった。
「お、お前はグレーターデーモンズのプラティナ!!」
ミカンがいきり立って叫んだ。
「あら? 私を知っていますの?」
プラティナ……だと?
確か、エースMFだったはずだ。
しかも王家に連なる貴族だとかなんとか……。
「てめえ、スパイに来やがったのか!」
「なぜ? 絶対に勝てる相手をスパイする意味がありまして?」
慇懃無礼……というよりは、ナチュラルに思ったまま言っているようだ。
実際、チーム創立以来、グレーターデーモンズには一度として勝った事がないと言う。
「私が来たのは、とても単純な理由ですわ」
「……理由と言うと?」
今にも飛びかかりそうなミカンを制して前に出る。
「ええ。次の試合、棄権しなさいな。時間の無駄です」
「……」
意図が、読めない。
どうせ勝つし面倒というのは、まだわかる。
だが、そんな面倒くさがりがわざわざ出向いてくるか?
「そちらにもメリットはありましてよ。今、そちらは好調と聞いています。2位争いは出来るかもしれませんね。棄権すれば得失点が有利に働くでしょう。棄権を勧めるのは王者として、せめてもの慈悲ですわ」
つまり、グレーターデーモンズからは勝利はおろか引き分けすら不可能で、勝ち点は取れない上に、大量失点するだろうと言っているわけか。
「……はいわかりましたと言うとでも?」
「残念ながら思いませんわね。だが、すぐに考えは変わると思いますが。そして、だからこそわざわざ足を運んだのです」
「何が言いたい?」
「今から、試合をしましょう。なぁに、簡単なゲームです。そちらはいるだけ全員でかかってきて構いませんわ。私一人でお相手しますから」
「は?」
プラティナは1対12で試合をするって言っているのか?
何をバカな……そう思ったが、いきり立つミカンはこれ以上抑えられないし、もうこの場を収めるには試合しかない。
そうして、この異常な試合が始まった。
始まったからには敵エースの力を試すチャンスと考えるほかない。
こちらボールからスタート。
うちは4―3―2―2という、変則的布陣。
まずは翡翠にパス――
「遅いですわ」
「なっ!?」
プラティナはとてつもないスピードでボールに迫る。
U‐23代表時代、スペイン代表の度肝を抜いた永井を思わせる、圧倒的な加速。
冗談じゃない。
コイツのスピードは、男子のトッププロなみだ。
あっという間にパスがカットされ、プラティナが駆けあがって来る。
と言っても所詮相手は一人。
パスを出す相手もいない以上、動きは限られる。
すぐにブルーが止めに入る。
「このっ」
「鈍いですわね」
あっという間に抜き去られる。
だが抜いた先にはモモとヴァイオラがカバーに入っている。
挟まれる形となったプラティナは、しかし全く焦ることなく、ブラジルの一流FWを彷彿とさせるリフティングで、まるで相手を弄ぶかのように抜けだした。
追いついた俺が後ろからファウル覚悟で体を当てていくが――
「ぬるすぎますわ」
全く意に介さない。
フィジカルが、完全に男子のそれだ。
いや、もっと上、男子代表クラスと言っていい。
「くそっ!」
テクニックとかそういう話じゃない。
こいつは、完全に身体能力だけでこちらを翻弄していた。
不遜に聞こえるかもしれないが、俺は正直、高校でも上の方のテクニックがあると自負している。
でも、こいつの前では素人同然だ。
プラティナはそのままDF陣を切り裂き、キーパーをかわしてゴールを奪った。
「まだまだ行きますわよ」
センターサークルまで戻っていくプラティナ。
既に、うちの選手たちの顔に暗い影が降り始めている。
何とか……何とかしなければ。
焦る気持ちはあるが、どうにもならない。
必死でまとわりつくも、するりと抜けられる。
いや、正確には体を当てても逆に弾き飛ばされて抜けられてしまうのだ。
再びディフェンスが破壊され、シュートがサイドネットに突き刺さる。
それの繰り返し。
3点、4点……。
悪夢の光景だった。
ここまで……ここまで実力差があるのか。
一方で、微かな違和感があった。
おかしい。
ブルーの動きにキレがない。
あの集中はすぐにできないにしても、こんなに簡単に抜かれていくようなヤツではないはずだ。
失敗だった。
……彼女をスタメンから外したのは……失敗だった。
集中できず、動きの精彩を欠いている。
俺は……監督として、見抜けていなかった。
外すべきではなかった。
くそっ。
無情にも5点目が決まった時、振り返ったプラティナはこう言った。
「……ね?」




