ジョーカー
果たしてそれは俺の錯覚ではなかった。
ブルーは、迫る相手MFをあっという間に抜き去ってしまったのだ。
それは俺が練習して覚えたエラシコやクライフターンとは全く違う、技術ではない天性の動きだ。
時間軸が違う、とでも言おうか。
全く相手がついていけていない。
異常なまでの集中力と反射神経。
今も二人のDFが挟むように迫って来たが、ヒールのトラップでループするように相手を越し、簡単に抜き去った。
抜き去るテクニック自体は、特別なものではないが、相手の仕掛けを完全に読み切っている。
こんな事、相手の弱点が完全に見えていないと出来ない事だ。
しかも、それを考えて動くのではなく本能的に感じて動いているからこそ、一方的に抜けるのだ。
これを殺戮本能と呼ぶ人もいる。
地球でもスポーツのトッププロくらいしか持ち合わせていない才能。
それを、ブルーの集中力が可能にしていた。
正直、信じられない。
先ほどのヤミの集中力にも驚いたが、ブルーはそれ以上だ。
もはや集中なんて言葉ではおこがましい。
支配だ。
いまや完全にブルーはピッチを支配していた。
アルゼンチンの英雄・マラドーナの伝説の5人抜きを彷彿とさせる、一方的な突破。
なんと中盤からのドリブルで最終ラインまで突破してしまった。
そしてクロスを上げる事もなく、一気にキーパーと一対一に。
これは決まる。
誰もがそう思った瞬間――
「あれ……?」
糸の切れた人形のように、ブルーはその場に膝から崩れ落ちた。
「!?」
ボールはそのまま相手キーパーに確保されたがそんな事はどうでもいい。
俺は迷わずブルーと翡翠の交代を申請した。
「あれれ……?」
担架で運ばれつつも、首をかしげるブルー。
これは日射病やケガじゃない。
集中力が、切れたのだ。
それと同時に、潜在能力までフルで使われていた体力が限界を迎えたのだ。
彼女の、圧倒的な才能は、本人にも制御できない危険なジョーカーだという事か……。
もしあの集中力が常時出せるなら、優勝だって難しくないと思うくらいだったが、この様子では自分でもコントロールできないのではないだろうか。
一方、翡翠には絶対に無理をしないようにと言ったのだが、こいつはこいつで言う事を聞かない。
満面の笑顔で全力ダッシュ。
それで豪快ミドルで点まで決めてしまうのだからよけい困る。
治りかけの怪我の完治が遅れるのもそうだが……出来れば翡翠は隠しておきたかった。
彼女はごっつぁんゴーラーのミカン、ブルーと違い、計算で点が取れるタイプ。
守備専門のカーネイションで、引いた状態からシュートを放つ機会が多かったからか、ロングやミドルシュートが抜群にうまい。
キーパーのスキをついてのループなど、相手の動きを見て決める能力が高いのだ。
ともあれ、こうなっては仕方ない。
いずれにせよ、足の止まりかけていた我らカーネイションは、フレッシュな翡翠の投入により戦局を覆した。
そして、2―0のまま試合終了のホイッスルを聞いたのだった。




