クイーン04
逆サイドでボールを受けたのは俺。
前回はトップ下に入っていたが、今回は俺が一番運動量を多くするのが勝利の鍵だ。
そこで駆け上がる量の多い、サイドに入っている。
代わりにトップ下に入っているのはブルー。
ブルーはこれまでトップ下では司令塔のようにプレーして来たらしいが、個人的には彼女に司令塔は向いていないと思う。
自由なブルーに向いているのは同じトップ下でもシャドーストライカーだ。
シャドーストライカーは最終ラインや1トップの裏から抜け出して決める存在で、ブルーにはもってこいだ。
戦術的には、この世界ではトップ下のエースがゲームメイクしている、地球ではちょっと昔の流行に近い。
現代の地球では、トップ下や1トップが中央で自由にプレーするのは難しい。
最終ラインが前になって来ていて、その分前線のスペースが詰まっているため、彼らが自由に動けないからだ。
が、この世界ではFWは攻撃専門のサッカーが基本。
つまり強力なFW頼みなのだ。
だから、それより先の時代の流行であるシャドーストライカーは相手が想像していない役割であり、意表を突く事が出来る。
「ってなわけで……!」
俺の仕事は、とにかく敵陣奥へ走り込む事。
とにかくボールを運ぶために、サイドアタッカーを増やしたのだ。
そこから、マイナスのクロスを中央へ上げる事を目指す。
マイナスのクロスとは、かみ砕いて言えば相手ペナルティエリアの奥から、自陣側へのクロス。得点に繋がりやすいプレーだ。
それが出来れば、後はミカンが、或いはブルーが決めてくれる。
と思ったが、敵の寄せが想像以上に早い。
中に切り込んでいってもいいが、ここは無理をしない。
一度後ろに戻す。
ボランチのレットへボールを下げ、レットは更にSBのアクアまで下げる。
組み立てとしてはやり直しになるが、焦る必要はない。
とにかくこの暑さの方が危険だ。
じっくり時間を使っていく。
そうして、それから暫くはこう着状態が続いた。
相手の隙をついて、クロスを中央に上げたものの、ミカンへは通らず、クリアーされてしまった。
スローインはモモから。彼女は視野が広いから、適任だ。
ボールはマイナス方向に出され、受けたのは右SBのメタル。
メタルはすぐにクロスを上げる。
「ミカン!」
ボールは前線のミカンの元へ。
「よしっ、って邪魔っ!」
ミカンはヘディングで合わせたが、DFも体を入れていたのでジャストミートしない。
ゴールの枠を外れてボールは飛んでいく。
「くっそー……!」
ゴールキックになりはしたが、シュートで終わるのはいい事だ。
相手のカウンターを受けないという事でもあるからだ。
さて、クイーン04はゴールキックからのリスタートだが、フィジカルはさほど強くないチームだけに無理はせず、大きなフィードではなく、最終ラインに軽く蹴って預ける形を選択していた。
だが、そこからが早い。
DF→守備的MF→攻撃的MFとワンタッチで繋いでくる。
シュートで終わっていなかったら、メタルたちも守備に戻れていなかっただろうスピード。
それでも、簡単にはやらせない。
地球の現代サッカーではトップ下や1トップが中央で自由にプレーするのは難しいという話をしたと思うが、それはスペースがないからだ。
なぜスペースがないかと言うと、最終ラインが高いからという話もした。
ウチの守備はまさにそれを狙っている。
クイーン04に比べ、うちのDF4枚は、かなり上がっている。
その上がったスペースを埋めているのはGKのムギ。
ムギが、勇気を出してゴールより前目に守る攻めの守備だから成り立つ戦術だ。
おかげでクイーン04側も、敵陣まで攻め込んだはいいものの、パスの出しどころに困っているようだった。
いかにフェロモンを使えるとしても、物理的にコースがないのはどうしようもない。
そこでパスカットし、一気に敵陣へ攻め上がる。
ヴァイオラはドリブルでの中央突破に長けている。
とは言っても、やはりここまで組織的な相手に中央は得策じゃない。
敵をひきつけたら即、左サイドへパス。
駆けあがっていたアクアから、追い越す動きで前に出た俺へパス。
この時点でペナルティエリアは目前。
俺は一気に中に切り込む。
DFが寄ってくるが一枚なら問題ない。
足のアウトサイドでボールを外に押し、同じ足のインサイドで内側に切り返す。
「!?」
最初のタッチで相手は外に蹴りだすと錯覚しているので、意識の外の内側から抜ける。
これぞエラシコ。
かのセルジオ越後氏が生み出したとされるテクニックだ。
ある種、普遍性のあるテクニックなので、この世界でも自然とやっている選手はいるかもしれないが、明確に理論立てられているわけではないだろう。
ならば、かなり有効だ。
複眼を見開いて驚くDFを尻目にそのまま抜き去った。
キーパーと一対一――
「……うっ!!」
という所で、背後から服を引っ掴まれて転倒した。
主審の笛が鳴り響く。
引っ張ったのは、もちろん今抜いたDF。
滅私奉公で組織的にサッカーをするミュルミドーンだが、それが弱点でもある。
事前にデータを分析してわかったのだが、DFにイエローおよびレッドカードが多いのだ。
ラフプレーというより、その責任感の強さゆえだ。
自分が抜かれた際、我が身を犠牲にしてでも止めようとする。
それがカードに繋がるわけだ。
そして彼女にはイエローカードが提示された。
決定機の阻止なので、レッドが出てもおかしくはないが、まぁいい。
位置としてはペナルティエリアの中のファウルだから、PKを獲得できた。




