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女装

 気づくと、どこか部屋の中に居た。

 どうやら、小部屋のベッドに寝かされていたらしい。

「お、俺は一体……」

 ……元の世界では……ないようだ。

 周りが全部石造りの壁で、機械で削ったとは思えない組み方をしている。

 と――

「おー、起きた起きた。ヒト族だよね?」

 真っ青な色の髪を右だけ結んだ少女が顔を覗き込んできた。

「えっと、誰? どこ? 何が?」

「ブルー、キングスフィールド、キミの種族が」

 にこにこと笑う少女。よく見れば、赤いユニフォームを着ている。

 さっきの人間側のチームの選手なんじゃないか?

「君はブルーって言うのか? キングスフィールド? このスタジアムか?」

「そそ。で、ヒトだよね」

「あ、ああ……そう、だけど」

「選手が足りないんだー。試合に出ない?」

 あっけらかんと、言う。

 こっちは、全く状況が飲み込めてないと言うのに。

 一応、聞いてみよう。

 言葉は通じるみたいだし。

「サッカー……だよな?」

「サッカーだよ?」

「女子サッカーじゃないか」

「女装すればいいじゃん」

 けろりと言いよる。

「……するわけないだろ」

「っていうか、可愛い顔してるし、そのままでも全然いいんじゃない? よし行こ~」

「ちょっ、おい待……」

 ブルーは、強引に俺の手を引いて部屋から連れ出した。




 着いたのは、ピッチサイドのベンチ。

 ブルーのチームメンバーらしき少女たちが集っていた。

 人数はブルーを入れて11人ちょうど。

 色とりどりの髪が目に鮮やかだ。

 否応なしにここが異世界だと思い知らされる。

 真っ赤なユニフォームの下は、半ズボンというよりキュロットで、近くで見ると女性らしさを感じさせる。

「というわけで、この人が助っ人でーす!」

 ブルーが俺の腕を高らかに上げた。

 自然と俺に集まる視線。

「あ、あの……」

「貴方、いきなり何ですか?」

「一応……助っ人……らしい」

 ベンチに座り、胸元まで伸びる緑髪を縦ロールに巻いた勝気そうな少女が眉をへの字に曲げる。

 彼女は足首をさすっていたが、赤く腫れ上がりどう見てもサッカーができる状態ではない。

「助っ人? ……見ず知らずの男に頼るだなんて……」

「そうである。流石に無理があるのである」

 緑髪の縦ロールの言葉にピンクの髪の少女が同調する。

 まぁ、言うとおりではあるんだが……そうは言っても、あの巨人を相手に10人で試合というのは現実的じゃない。

「そう言われるのはわかる。……だが、メンバーが足りないんだろ?」

「そ、それは……私が出れば……」

翡翠ひすいっち、そらいくらなんでも無理やて……」

 紫の髪でロングヘアーの少女が言う。何で関西弁なんだ。

 だが、そのコの言うとおりだ。

 緑の髪の少女――翡翠の怪我は試合に出るどころかまともに歩くのも困難だろう。

「そゆ事。もうこれしかないと思うよ」

「くっ……」

 ブルーの説得に、しぶしぶ引き下がる翡翠。

 ……というか、俺もなんだかよくわからない内に出るの確定してないか。

 わけのわからない世界に飛ばされた挙句、サッカーってどういう事だ。

 ……いや、毒食らわば皿まで。

 何もわからないからってあの場に居続けても何も変わらないだろう。

 今は、流れに乗ってみるんだ。

「その……矢田駆郎です。ポジションは、FWとMFはどちらも出来ます。よろしく……」

 そこからは、とにかく全員の顔と名前、それからポジションを一致させる作業が始まった。

 ハーフタイムも残り少ないから、髪の色が全員違うのがありがたい。

 そこを突破口に記憶していく。

 時間のない中だったが、とりあえず全員の顔と名前は一致した。

 ベンチにすら入れない自分のまともな仕事と言えば偵察スカウティング

 対戦校の選手の特徴と名前、それから背番号を覚えるのは必須だった。

 だから、こういうのは得意だ。

 ……いいさ。

 どうせ自分の世界じゃ出番の無かった俺だ。

 出番があるって言うなら、なんだってやってやる。

 キュロットだろうがなんだろうが着てやる……。

 にしても。

 状況はなかなか絶望的だ。

 相手は全員2m級の巨人。

 女性だけのこっちのチームからすれば、大人と子供ですらない。

 前半終了時点で0―2で済んでるのが奇跡と言える。

 守備専門の戦術をカテナチオ――厳密には陣形は違うが――と言うが、まさにその形だ。

 けど……勝てない相手じゃない。

「一つ聞きたい。……勝ちたいか?」

「当たり前だろ! オレは勝ちたいぜ!」

 オレンジの髪のFW、ミカンが叫ぶように言う。

「……みんな同じか?」

 頷きはするものの、当然そこには疑念の色がある。

「まぁ……そうだけど。それで勝てれば世話はないのである」

 ピンクの髪のモモが露骨に不審がって言う。その珍妙な語尾とは裏腹に、至極まっとうな意見だと思う。

「いきなり言われても信じられないだろうが、騙されたと思って信じてくれ」

「信じる? 見ず知らずのあなたを信じるのは、流石に無理があるのである」

「信じるのは、このチームの勝利だ」

 相手は、オロとか言う超長身のFWへの縦ポン頼み。

 身長頼みのせいで、ロングパスの精度も低いし、GKのフィードも下手。

 なら、やりようはある。

「勝てる……と? どうやって?」

 モモの疑念はもっともだ。

 だが、答えはシンプル。

「攻めまくるぞ」

「え?」

 全員の目が丸くなった。

「そんな事したら、カウンターでやられるじゃないっすか!」

 水色の髪のアクアが非難の声を上げる。

 確かにわからんではない。

 でも、逆なんだ。これはチャンスだ。

「違う。あいつらは戦術を持ってない。縦ポンの繰り返しで、ラインが上がりっぱなしになってる。スキだらけだ」

 俺は、持てる知識を総動員して作戦を伝えた。

 やがて、試合再開の時間が近づいてきた。

 みな、新参者の俺の言った事に半信半疑なまま、ピッチに向かっていく。

 そして試合再開の笛が鳴る。


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