ミュルミドーン
・7
夕暮れが赤い大地を更に赤く染め上げる。
そんな赤土の街に、異質ともいえるような緑生い茂る場所がある。
特別な芝を全面に生やした、アンティノーラスタジアムだ。
この芝と、傾き始めた日差しによって、体感温度は日中よりかなりマシに感じる。
観客席に、ヒト族の姿はほとんどない。
一方、たくさんのミュルミドーンが詰めかけているが、全員ほとんど同じ顔なので、手抜きアニメの背景みたいに異様な光景だ。
まぁ、カーネイションの人気がないのはわかってた事だ。
勝てないというのは、そういう事。
ラグビー日本代表が優勝候補の超強豪南アフリカを撃破してから観客が劇的に増えたように、勝つというのは何より大事である。
幸い、ウチに寝不足のメンバーもおらず、準備は万端。
布陣は4―2―3―1。
この布陣は、自陣に近い順に人数を示していて、守備4人、中盤自陣寄り2人、中盤敵陣寄り3人、前線1人という意味。
具体的には、ミカンを1トップに、ブルーをトップ下、右にモモ、左に俺を置く形だ。
前回とは俺とブルーの位置を変えただけ。ボール運びでサイドを駆け上がる運動量が必要な分、俺がそっちに入ったのだ。
これが今考えられるベスト。
今日も、勝つ!
そして、キックオフの笛が鳴る。
前半はミュルミドーンボールから。
すると、定規で計ったのかというほど正確な動きでラインを上げてくるクイーン04。
一糸乱れぬ動きで、パス交換を繰り返し進んで来る。
パス交換の際、パス相手をほとんど見ていない。
これは複眼の視野がとてつもなく広いせいだ。
「くっ……」
その連携の上手さから守備も的が絞りにくい。
ゾーンで守備をすると、抜かれやすくなるのでマンマークするしかない。
それが体力を消耗しやすいのは言うまでもない。
「……ホント、とんでもない相手だな」
実際に相対してみて、その怖さがわかる。
クイーン04にエースは居ない。
だがそれは、言いかえれば全員がエースのようなもの
運動能力もほとんどバラつきがない恐るべきチームだ。
素の身体能力がヒトとほとんど変わらないのが救いか。
足なら俺の方が全然早い。
とにかく、パスを出す前に潰さねば。
ボールを受けた前線の選手に突っ込む。
が、その広い視野からかわされてしまう。
「それも……お見通しだよ、と」
そこから加速、出されたボールをカットする。
正直、試合前半から飛ばしすぎだとは思うが、ここはボールをキープしておきたい。
ボールを奪った俺に、奪われた選手が突っ込んで来る。
そこで後ろに戻す。ボールはヤミに渡り、ヤミから最終ラインのシルヴァまで戻る。
今、カウンターは出来ない。
相手はボールを奪われた瞬間にディフェンスラインを一斉に下げている。
とんでもない統率性だ。
ここは時間をかけてでも攻撃を組み立てる方が得策だ。
守備より攻撃の方が断然、体力を使わないで済む。
この暑さの中なら、とにかく攻撃のターンを増やして体力を温存するのがベスト。
DFの底にいるシルヴァから、右SBのメタルへパス。
メタルが右サイドを駆け上がる。
普段、このチームに指示しているのは、積極的なSBの上がりだ。
が……この暑さだとそれは自殺行為。
SBのランは非常に体力を使うプレーだからだ。
今日は控えめにする作戦だが、それでもチャンスならもちろん上がってOK。
メタルに釣られるように、敵のDFが寄ってくる。
同時に、MFのナットが上がって敵を釣り出す。
そこで彼女は大きく逆サイドへ。
前回もそうだが、大胆なサイドチェンジはこのチームに伝えた基本戦術だ。
サイドチェンジは、攻めやすい一方で、仮にボールを取られてカウンターされたとしても、守備に戻る時間を稼げる。
逆にサイドから中央へのパスをカットされると、カウンターで速攻を受ける。守備に戻る時間が取れないからだ。
これほど統率のとれたチーム相手にリスクが大きすぎる。
じっくり崩せるサイドから攻めていくのだ。




