表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/48

和食

「……そやろ? ダメやねん。なんか足らへんねん」

 頭を抱えるヴァイオラ。

「ちゃうねん。オトンの居た頃はここもまだ流行っててん。オトンがなんか幻の食材探すとか言って出てったきり丸3年、オカンと頑張ってきたけど、何か上手くいかへんねん……」

「これなら塩コショウやコンソメを入れたら合いそうだけどな」

 魚の臭みも消せるし、と思ったのだが、その言葉にヴァイオラは肩を落とした。

「……あんなぁ、胡椒とかコンソメみたいな高級品、手に入るわけないやろ……」

「高級品? ああ、胡椒はそうか。でもコンソメもか?」

「せやで? 大量の牛肉や鶏肉、それに野菜も使って煮込んで取れる量はチョッピリ。あんなん貴族サマの食べモンやで」

 そうだったのか。

 胡椒は歴史の教科書にも載ってるくらいだから知っていたけど、コンソメも高級品とは思わなかった。

 コンビニであれが100円とかで買える日本に改めて驚愕した。

「だとすると……やっぱりダシだな」

「ダシ!」

 ダシという単語に、ブルーが食いつく。

「そうだよヴァイオラ! ダシだよダシ!」

「ダシぃ? ブイヨンか? あれも結局コンソメよりマシやが単価がハネ上がるで」

「昆布だよ昆布!」

「昆布ぅ?」

 いぶかしむヴァイオラ。

 その辺の葉っぱを食べるとでも言われたようなリアクションだが、確かにこの世界で食べられていないのだから、まぁそれも自然な反応だろう。

 今日も今日とて市場に向かい、魚と昆布にネギ、それから柑橘類を買ってきた。

 昆布を売ってるおっちゃんからは心底不思議そうな顔をされた。昆布リピーターのヒト族がよほど珍しいのだろう。

 八百屋では、奥の棚に置かれていた熟れる前の柑橘類を買うために交渉すると、「それ、熟成途中で食べごろじゃないから酸っぱいわよ」とおばちゃんから言われたのだが、だがそれがいい。

 試しに1つかじってみたが、カボスそっくりのいい酸味だった。

 その酸っぱさ満点フェイスに、おばちゃんは「かわった趣味だねえ……」と明らかに誤解していたが。

 ともあれ、材料は揃った。

 作るのは、先ほどヴァイオラが作ったのと同じ鍋だ。

 ただし、まず下ごしらえとしてコンブでダシを取っていく。

 さっきの鍋で余った魚の頭や骨も入れてことこと煮込む。

 その様子をヴァイオラは怪訝な様子で覗き込んでいた。

 魚の身は、塩を振ってしばらく置いておく。

 白菜は葉と芯を分けてざく切りし、ネギは根っこを切って斜め切り。

 大根は煮崩れしないよう面取りして、十字に隠し包丁を入れる。

 自分用なら普段はここまではしないけど、人に出すなら拘るのだ。

 この辺から、明らかにヴァイオラの表情から怪訝さが消え、真剣さを帯びてきた。

 ダシから作ったスープに野菜を投入して煮込んでいく。

 丹念にアクを取るのも忘れない。

 それから魚にお湯をゆっくりかけて下ごしらえし、鍋に投入。

 蓋をしてひと煮立ちすれば鍋自体は出来上がり。

「おお……何やすごいプロっぽいやないかい」

 それから茶碗に取り分ける。

 盛り付けも、よせ鍋のパッケージにあるみたいに、ネギの置き方を拘ってみる。

 木から自作した箸がここで大活躍。

 その箸という不思議な器具に、双子たちがはしゃいでいた。

 確かにスプーンとフォークの文化圏からしたら、なぜ2本の棒であんなにものが自在に掴めるか不思議にもなるだろう。 

 最後に二つに切ったカボスっぽい柑橘類を取りだす。

「なんやそれ? 熟れる前のみかんやないか。それをどう……ってあーーー!!」

 俺がそれを絞って取り分けた茶碗にかけたものだから、ヴァイオラが絶叫した。

「なんちゅうことをすんねん! せっかく旨そうになっとったのに……みかんかけるとかありえへんで」

「それがありえるんだなー!」

 だからなぜお前が胸を張るのだブルーよ。

 あと、カボスは食べた事ないだろキミも。

「ま、食べてみなよ」

 ヴァイオラを座らせ、茶碗を差し出す。

「う……わかったで。女は度胸! ウチも女や! 食べたろうやないかい!」

 勢いよくかき込むヴァイオラ。

 直後、その動きがぴたりと止まった。

 まるで時間が止まったかのような、完全な静止。

「ね、ねーちゃん? まずいんか?」

 心配した弟が顔を覗き込むも、反応はない。

 一瞬遅れて――

「……ありえへん」

 ぼそりと呟きが漏れた。

「ん?」

「ありえへん! 何やこれ! 旨ぁ!! 旨あああああああああああああ!!」

 立ち上がって絶叫するヴァイオラ。

 いくらなんでもリアクションでかすぎだろ。

「アカン……アカンて……こんなん、持ってかれてしまう……」

 何をだ。

「スープのコクが尋常やない。それに、魚の臭みがまったくあらへん。あのみかんの酸味が臭みを消しとる。オトンの味とかそんなレベルやない……バケモンや……コイツ、とんでもない天才料理人やで!」

 青ざめてまくしたてると、再び勢いよくかき込みだす。

 何か……泣いてないか?

「オトン……どこで何しとんねん……っ! 幻の食材とか……全然いらへん! 普通の食材で……こんなに旨いモンつくれるんやで……!」

 その様子に、

「ボクもボクも!」

「おれもおれも!」

「わたしもあたしも!」

 三人の子どもたち(ブルー含む)が騒ぎ出した。

 俺が取り分けた皿をひったくるように奪うと、がつがつと流し込んでいく三人。

「うまー!」

「うまー!」

「うまー!」

 お前らは三兄弟か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ