ヴァイオラ
風呂から上がると、今度はヴァイオラが出待ちをしていた。
「アハハ……さっきは、スマンかったなあ」
頭をぽりぽりとかくヴァイオラ。
「お詫びちゅうてはなんやけど……ウチに来うへんか?」
「ウチ?」
「ウチ、食堂やっててん」
「お、そうなのか」
「ブルーも呼んどるから、一緒に行くで」
「ああ、じゃあお言葉に甘えようかな」
そんなわけで、練習上がりにヴァイオラの実家へ向かう事になった。
今日はまだ夕方にもなっていないが、激しい運動にお腹はぺこぺこだ。
この世界も中世と同じで一日2食らしいから、それに合わせるともう、腹が減って腹が減って……。
彼女の実家は、スラムというわけではないが、古い建物が立ち並ぶ下町的な場所にあった。
店も、古い――と言っても歴史的という意味ではなく、単に古い――、大衆食堂だった。
サイズとしては、コンビニや吉野家三つ分くらいか。
広さはそこそこだが、お客さんは常連らしきおじいさんが奥に座っているくらいで流行っている様子はない。
店の奥が厨房になっていて、調理しているところが丸見えのスタイルだ。
「ただいまぁ~」
ヴァイオラが店に入るなり言うと、奥からどたばたと音がしてきた。
「ねーちゃんおかえりー!」
「おかえりー!」
出てきたのは、ヴァイオラと同じように紫の髪をした少年と少女だった。
ヴァイオラと違うのは、ふたりともおかっぱ頭な所だ。
年齢は8歳前後といったところか。
「あ、ブルーもいるー」
少年が言う。
「こら、ブルーさんやろが」
ごちんとヴァイオラがげんこつ。
「ぐぇ……う、うん。その……ブルーさんこんにちは」
「こんちゃー! サキラもユカリも元気そうだねえ」
手を振るブルー。
「元気やでー」
「一瞬前まで元気やでー! 今は頭が痛い」
本当に元気だ。
「きょうだいなのか?」
「せやで。ウチの弟のサキラと妹のユカリや。双子なんやで。あんまり似てへんけどな」
男女の双子の時点で二卵生だもんな。
俺から見たら十分似てるように見えるけど。
「なんやこの男」
指さして来るサキラ。
「ねーちゃんのカレシに決まっとるやろ。アホやなあ」
どうやらユカリはおませさんらしい。
「アホはお前や。ねーちゃんがモテるはずないやろ」
「アホか! モテるわ! カレシちゃうけどな! うちのカントクや!」
サキラはヴァイオラの拳でこめかみをぐりぐりやられて悶絶した。
彼は余計なひと言が多いらしい。
そんなショートコントめいた家族の一幕を終え、ヴァイオラがエプロンを巻いた。
「あれ? 今日はヴァイオラが料理するの?」
「せやで。オカン、働きすぎて今寝込んどんねん」
親指で奥を指さす。
階段が見えるので、おそらく上で寝ているのだろう。
「まぁ、疲れとるだけやから一日休めば大丈夫やろけどな」
「ふんふーん」
双子は鼻歌まじりに野菜を洗う手伝いをしていた。
「ふんふーん」
その姉であるヴァイオラも同じような鼻歌を口ずさみながら、調理していく。
慣れた手つきだ。
これは期待できそう。
「ほれ、出けたで」
そうして出てきたのは、魚の鍋だった。
ヴァイオラ自ら取り分けてくれた。
塩ベースのスープに、海魚と大根と白菜というシンプルなもの。
スプーンとフォークで食べるらしく、その形状は地球と差異がなかった。
とりあえずスプーンで口に運んでみる。
悪くは、ない。
「……どや?」
心配そうな顔で覗き込んで来る。
う……正直物足りないが……言えるはずがない。
「う、うん。悪くないと思う」
それからちらりとブルーに目を向けるヴァイオラ。
ブルーは、
「なんか足りんなー」
直球である。
でも、実際その通りだった。
別にまずくはないのだ。
食材の切り方も食べやすいし、火の通りもいい。
でも何かが足りない。
味にパンチがない。
あと、少し魚の臭みが残ってしまっている。




